■Area：枯れた土地

砂埃を乗せて、乾いた風が吹く。
空虚な曇天、砂に吸われる無情な静寂。
一切の恵みに見放された土地。

これから、メルンテーゼに広がっていくであろう風景。

ネクターが枯れ、人とエンブリオが離れ
水も草も枯れ、生き物は死に絶えた。
こんな過酷な環境でも生きていける強靭な種を除いて。

王により搾り取られた残りカス。


乾いた破砕音が辺りに響く。
鉄拳が、刀が、乾いた土を易々と割っていく。

ハニワの一群。
いにしえのちから。
王の副葬品である土の兵士たち。
長い年月のうちにその任も忘れ、墳墓を離れてこうして荒野を彷徨うものもいる。
ゴレムの遠い先祖に当たるとも言われているが、定かではない。


一通り叩き割り終わり、静寂が戻る。
その足下ではハニワの破片が寄り集まり、自己修復をはじめていた。
長きの時を王の御側で守るための機能なのだろう。
壊れやすく、直しやすい。
土に還れぬ土の兵士。
契約に縛られたそれは呪いのようなものだ。

死せる古代の王のエンブリオ。

割れた空洞から、乾いたネクターの粉が空へと舞って、散る。
彼らは新たな主を選ぶことも出来る。
勿論、選ぶ者が居れば、の話ではあるが。


遊撃隊の面々は彼らに興味を示すこともなく踵を返す。
ただ１人、土の色の肌を持つ男を除いて。

足先を踵に踏み抜かれ、苦悶に歯を食いしばりつつも睨み付ける。

彼女の言葉に、小さく頷く。

ネクターを手に入れるために奔走した事、それでも大事にはならないとどこかで楽観視していた事、ようやく手に入れたネクターが無駄になった事を思い出し、下を向いてしばし沈黙する。
グリゴリがまだ幼い子供であれば、彼女に泣きついたかもしれない。
誤魔化すように言葉を続ける。

ヘクターは自警団隊長と名乗る女に視線を向ける。
その目は前髪に隠れて見えないが、凡そ予測される目線に合わせ、
握手を求めるように右手を差し出して言った。

歩み寄って来た女に気付き、様子見もかねて大人しく話を聞いている。

獰猛な笑顔を返す。ギラリ、と鋭く白い歯が光る。