砂漠の空に、大きな満月が浮かんでいる。
冷たい静寂の中浮かぶ月は、とても幻想的だ。

ロゼは一人、特に何をするでもなく、馬車から少し離れた場所に佇み、月を眺めていた。

一羽の鴉が、ロゼの足元に舞い降りる。

ロゼは静かにそういうと、また月を見上げる。

聞こえないほどの声で、彼女は呟く。

グラミスは、特に何を言うわけでもなく、彼女の元を離れ、馬車に戻る。

馬車の横で休んでいた黒い馬が、グラミスにそっと話しかける。

主人もいろいろ大変なんだよー、というメイアンの言葉を聴きながら、グラミスは、まだ一人月光の下に佇む少女を見やる。


「お互いの過去には不干渉」
それがロゼとユーリの契約条件の一つだと聞いた事がある。
おそらく満月の夜は、ユーリの”過去”と大きく関係するのだろうが、ロゼはそのことを一度も追及したことはない。
追求はしないが、やはり気にはかけているのだろう。
だから、あえてあんな風に距離を置いているのだと、グラミスは眠りに堕ちてゆく頭でそう思った。

切っ先の無い剣に掘り込まれたルーンが、赤く光った。