「私、野宿は嫌よって、言ったわよね？」

「仕方ないだろ、金が無い以前に、こんな場所に宿なんて無いんだからな。我慢しろ」

広い庭園を歩きながら「お天道様の匂いがする清潔なシーツじゃないと眠れないー」などと叫んでいるが、昨晩の時点で飴造より先に寝ていたのを見ているので、適当に言わせておけば満足するだろうと無視する。
そのまま暫く歩いていると、先の方に人影が見える。
近づいていくと、闇の如き黒い鎧を見に纏い、ウインサムチラーブの花を手に持っている。

「ふふ、来たか馬鹿どもめ・・・ 」

そう呟くと武器を構え、相手を威圧するかの様に大声で叫ぶ。

「即刻立ち去るがいい！世界に害をなす虫けらめッ！！」

「他を当たれ」

肩から巨大な飴を下ろし、腰を低く構える。

「あれって見た感じここの兵士でしょ？他を当たれなんて無理でしょ」

「お前は黙って安全なところまで下がってろ」

「ここを通すわけにはいかないッ！！」

そう叫びながら突進してくる兵士に対し「これも仕事なんでね」と返し、懐から取り出し、魔力を込めた飴玉を投げ付ける。

「これは焼きりんご味だ」

相手の腹部に命中するも、鎧に阻まれ足を止めるだけのダメージにはならなかったらしい。

「喰らえええぇぇッ！！！」

手にした剣を大きく振り上げ、突進した勢いのまま振り下ろす。
致命傷は避けたものの、ダメージを負った事には変わりない。
懐から別の飴玉を取り出し、同じ様に魔力を込めて投げ付ける。
同じようなやり取りを数回繰り返し、相手の隙を伺っていると、ほんの一瞬だが兵士の足が止まった。
その一瞬を逃さず、手に持っていた巨大な飴を大きく振りかぶり、兵士に叩き付ける。
間一髪のところで両腕を盾にされた所為で倒す事は叶わなかったものの、起き上がるのもやっとなくらいにふらふらしている。
あと一撃与えれば倒れるだろうという考えが油断を生んだ。
投げ付けた飴玉を避けられ、その勢いのまま突進してきた兵士の攻撃をものに受け、後方に飛ばされる。
自分の油断に舌打ちをし、その場に踏ん張りながらも、体勢を立て直している兵士に飴玉を投げ付ける。
投げ飛ばされた飴玉は込められた魔力を喰らい、速度と強度を増しながら兵士の鎧の隙間にめり込んだ。

「ブ、ブランチマン様・・・・・」

そう言い残して倒れる兵士が動かなくなる事を確認すると、巨大な飴を肩に担ぎ直す。
ラゼルが飴を担いでない方の肩に飛び乗ってくるのを確認し「面倒臭いな」と小さな声で呟くと、城の方向に向かって歩き出した。