偶に見る夢は、新しいようでいて懐かしい。
決まってそうだ。まるで映像作品のように遠くから観客のように眺めると
その中には必ず薄紅の髪の少女がいる…これは自分だ。いつも漠然と確信している。
夢の自分は面影も幼く拙い。己に自信もない。いつも控えめに佇んでいる。

昔の己は今よりもよく笑っていた。
夢、希望、そんなものをつかんだ貌　時に膝折る事があっても目線は常に前を向いている。
俯いても、傷ついても、何処か逞しく雄雄しくさえ感じられた
今よりももっと、幸せに溢れた表情であった。
…己は記憶が無い。
この過去の自分が真実のものであるかさえもわからない。
ただひとついえる事は、迷い戸惑う事があってもこんなにも前を向いた過去と
今の間に「何か」があったのだ　と、いうことだ。


水辺に野宿した夕べ　雇い傭兵の一人が歩み寄った。
己の体力を案じていたのだろう仏頂面に問いかけると己の包帯を一瞥する。
まったく要らぬ世話だ。　何気ない気遣いに心中毒づくとたっぷりと間を空け
ゆっくりと包帯の巻かれた右手を挙げた。

先の戦闘での怪我はたいしたものではない。コンディションも万全に近い。
しかしこの両の手だけはいつまで経っても治る気配は見せなかった。
悪化する事は無い、けれど改善治癒もまたない。まるでここだけ時間がとまったかのようだ。
問いかけに彼は如何答えたであろうか。いずれにせよ此方から返せる返答はひとつしかなかった。

時間が経てば包帯は汚れる、じわりと表面に血がにじむ。
まるで潰されたような手の甲であるのだと自嘲気味に笑って呟いた。
どこでこんな怪我をしたのだろうな、などと　続いた言葉は己に向けたようでもある。



何故だろう
出来た傷の話をする時間はとても空虚に、そして他人事のように感じるのだ。
傷の治りや健康状態などに関心がもてない。ここだけ感覚が麻痺したようだった
まとまりの無い思索の後、もう一度ゆっくりと顔を上げた

と朗らかに笑う男。悪気はおそらくない。

突如聞こえる、声でないような声。目を凝らせば貴女は男の肩口で手を振っているこめつぶたちに気がつくかもしれない。

　
　あぁ、止まらない。どうにも口が止まらない。
　そして近づいて観察すればわかるだろう。今話しているのが彼自身ではなく、
　その首に巻き付いているマントであるのだと。

　饒舌に流れていた言葉が不意に途切れた。
　襟元のマントを引っ張り口を閉ざしたのと同時に、紅い瞳の少年が言を放つ。

首根っこを掴まれたままで、ブランブランと揺れながらスカートを押さえ。