「これでよし」

ぱたん、と猫モチーフのノートを閉じる。
同行者に頼み込んで始めた「交換日記」だ。

四六時中顔を合わせいるし、遠慮してモノを言うわけでもない。
きっと同行者は、何故こんなことをするのだ、と不思議に思うだろう。

「ずっとやってみたかった」から。
彼女の理由はそれだけ。

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死んだ理由は分からない。

血が固まり肉が冷え、むき出しの魂が放り出された。
霊と呼ばれる姿で、何が起きたのかと立ち尽くしていた。

理解し泣いている場合ではなかった、魂が剥がれ落ちていく。
刻々と減る自分に気付き、慌てて走った。

あの街に帰らなければ、私を撫でてくれたあの手を助けないと。
自身のことを大事にしないあのひとを、どうしても。

夢中で走るあまり、分厚い黒縁眼鏡が落ちる。
振り返らず、黒い長い髪を振り乱して走リ続ける。

眼が燃える。
もう魂だけなのに、まだ私の眼は蒼く光るのね。

駆けつけて、助けられるだろうか。
あのひとは救われてくれるだろうか。

こんな私で声が届くんだろうか。
隠れて泣いてばかりだった。

私が変わらなければ。
変わらないと、何もできない。



********

ひた走る彼女の視界が突然、真っ暗になる。
ああ、剥がれ落ちたんだな、とすぐに分かった。

このまま燃え尽きたように消えてしまうのかしらと
じっと息を潜めてその時を待っていた。



ふと、自分が目を閉じていることに彼女は気づいた。
重力による体の重みにも。横たわっている感覚にも。

目を開くと、見慣れない部屋だった。
白いシーツのベッド、人の居る気配。

右腕を動かして顔をぺたりぺたりと探る。
手も腕も顔もあった。眼鏡はなかった。
そのまま、全身の神経、手足が無事かどうかに頭を巡らせる。

その思考は忍びの修行で身についたもの。
今の彼女には分からないが。

体を起こす。
視界に入ったのは、初老の女性。

「おはよう」

女性が微笑む。

「私はファウファウル、大丈夫何もしやしません。
　あなたのお名前は？」

「……透子」

部屋に漂う紅茶の香りと、何か焼き菓子の匂い。
突然の空腹に、透子はもう一度肉体を持てたことを実感する。

どうでもいいことに拘るマコトだった。

・°☆.。.:*・°☆。.:*☆.。練習試合を終えて.:*・°☆.。.:*・☆.。.:*・°☆

試合の決着を見届け、フィンヴェナハがトーコの元へと近付く。
その顔は相も変わらず、ムッツリとした表情のまま崩れない。

それにしても、と間を置きながら瞳を動かす。
その視線は先程と同様に、トーコが身に着けている派手な衣服を眺め回している。

小さく首を傾げながら、再びトーコの顔へ視線を戻し。

立ち尽くす少女のその様を、色の違う瞳で見つめていた。
問いを重ねるでもなく見透かすでもなく、ただ少女を見つめていた。

専らこの腕だ、と軽く掲げる。

重ねて過去への語り口。
穏やかな頬に、口元を彩るそれは、或いは。

それから少女のその言葉に、僅か虚を突かれたように問いを返した。