セリーナ『それにしても、よかったです。今回の護衛はまともな方で……。』

商品の詰まったリュックを再び背負い、歩き出したセリーナがぽろりと漏らした一言。

世間には、護衛を騙って依頼を受けて逆に護衛対象を襲うような輩や、自分の身すら守れないほどの腕で護衛を買って出る身の程知らずというものも少なくはないと聞いている。
とはいえ、セリーナはあまりそういう輩に騙されそうには見えないのだが……。

セリーナ『いえ、悪い方じゃなかったです。それどころか、とてもいい方でした。腕の方も問題ありませんでしたし。
ただ……。』

セリーナは何か言い辛そうに口ごもって俯いている。

とてもいい人で、護衛の腕も問題がない。
だとすると、何の問題があったというのだろうか……？

セリーナ『少し個性的……。
……いえ、随分と変わった方でしたので……。』

最初は柔らかい表現を選ぼうとしていたようだが、それでは誤解が生じるとでも判断したのか言い直すセリーナ。

なるほど。今回はまともでよかったという言い回しだったのは、そういう意味だったのか……。

セリーナ『自分ではごく普通と言っていたんですけど、いろいろとズレている方で……。
細かい例を挙げていくとキリがないので省きますけど、どういうわけか、変わったお面をいつもつけていました。』

セリーナ『ひょっとこという名前のお面ですけど、こんな感じの滑稽な顔のお面で……。』

セリーナはベルトポーチから紙と鉛筆を取り出し、すらすらと何かを描きはじめた。
程なくして完成した絵を見てみると、確かにおかしな顔のお面で、どう考えても常時身に付けるような類のものではない。

率直な感想をぽつりと漏らす。

セリーナ『ですよね……。』

セリーナは遠い目をしながら呟いた。



先ほどのような雑談をしたり、襲いかかってくる動物を追い払ったりしながらしばらく二人で歩いていると、前方に複数の人影が見えた。

人影『ふふ、来たか馬鹿どもめ・・・』

黒い鎧を着た男たちに行く手を阻まれる。
同じようなデザインの黒い鎧を着た二人組。見たところ、どこかの兵士だろう。

兵士『即刻立ち去るがいい！世界に害をなす虫けらめッ！！』

武器を構えながら叫ぶ兵士たち。

相手は武器を構えた兵士。
兵士たちは戦う気満々で、どう見ても退いてくれそうにはない。
戦いは避けられそうにない場面だ。

大声をあげる兵士たちにうんざりしながらセリーナに話しかける。

セリーナ『雲行きが……。雨が降りそうですね。
戦いが避けられないのでしたら、雨が降る前に急いで終わらせましょう。』

セリーナが空を仰ぎながら応える。

戦いの最中に降られると面倒な事になる。
急いでかたをつけるべく、剣と盾を手に、敵陣に斬りかかった。

セリーナには傷ひとつつける事もなく無事に戦闘は終わったが、敵を殲滅するのに思った以上に時間がかかってしまった。
僕もセリーナも攻撃よりも防御や癒しの方が得意なので、仕方ないといえば仕方ないのだが……。

戦いが終わる頃にぽつぽつと降り始めた雨は、すぐに勢いを増していき、間もなく視界を遮るほどの大雨となった。

とにかく、雨を凌げる場所まで行かなくては……。
慌てて雨を凌げる場所へと駆け込む間に、セリーナの姿が見えなくなっていた。