「ブ、ブランチマン様……」

兵士が倒れザマに呟いた。

「……ふむ」

ブランチマン、ね。
中央の内情については詳しく判らないが、重要な人物の名前だろうか。
これは、政治についても学んでおくべきだったか。

「じ……未琴、無事か？」
「ええ、全然平気よ」

まぁ、嬢は後方支援に徹してくれていたし、
兵士達も近接戦闘技能者しかいなかったからな。
飛び道具があれば違ったのかもしれんが……。

それにしても、これで私達にも逃げ場はないか。
遅かれ早かれきたことだが……まさか二日目とはな。

「早かったな」
「ええ、まったく……」

嬢にとっても想像以上の早さだっただろうか。

「痛い目をみて当然なんだからね」
「いや、そう言う話じゃない」

何を『ムフー』とか鼻息荒く言ってるんだ。

「え、じゃぁどういう話だって言うのよ？」
「いや、まぁ……良い」
「え、え？ちょっと、何なのよ〜？」

溜め息をついて手をヒラヒラと振って返す。
この話はもうおしまいだ。
嬢が『私、何か間違えたこと言った？』と言った表情だが、
まぁ間違いでもないしな。
兵士であるならば当然怪我を負うことも了承済みだ。
だから、私達が気に病む必要もない。

「昨日に比べて、どうだ？」
「え、ええ。ちょっとは感覚掴めたと思う」
「そうか、ならいい」

神乃は治癒術の大家。
戦闘でももちろん役に立つことは立つが、
もっとも得意とするのは儀式術や神楽舞などによる大規模な物だ。
嬢のこれまでの力量や知識だと、野戦などは上手く力を発揮できる物ではない。
術の高速発動、適切な回復量にまで抑えた体力消費量の調整方法など、
戦巫女として、それなりに修練を積む必要があるのだ。
もちろん、それらが全くないわけではないし
だからこそ、今日も……昨日でさえもそれなりには戦えた。
護身だって学んでいるので攻撃術も、白打でさえ可能だ。
今後、多少生き方を左右するかもしれないが
それは嬢にとって良い経験となってくれるだろう。
基本、神乃の姫巫女は土地からはあまり出ない。
地方に地鎮祭や祈祷で呼ばれたりすることもあるが……。

「さてぇ、これからもどんどん進むわよー！」

今の嬢が、とても輝いて見える。
だから、今はこれで良いのだと思う。






「綺麗な水だな」

サラサラと水が流れる音を聞きながら、
その風景を楽しむ。

今まで城内の広庭を進んでいたが
一度水辺に寄っていくこととなった。
水の補給も必要なので反対する要素は何もなかった。
今は各自、それぞれここがどう言う場所か見極めている最中だ。


パシャリ


少し離れた場所で水面の跳ねる音がした。
魚、もあるかもしれないが、水系エンブリオもいるかもしれない。
綺麗な水な水がある場所に彼らは集まるので安全の証明になるし、、
その水自体を浄化してくれるので更に綺麗になって良い事尽くめだ。

「さて、では」

コトリ、と小さな器を取り出す。
外で煮炊きするのに使っている物だが、
まさか城内で使う事になるとはな。
そもそも、そこまで長居をするつもりもなかったのだが
持ってきておいて良かった。

食料はルリアンナ達この一揆の裏方が用意してくれる。
とはいえ、ＰＳで代価を取られるとは思わなかったが。
まぁ、向こうも全てココで費やしてたら干乾びてしまう。
運営にも費用が要るのだろう。
もちろん、そんな大層な物でなければ食料も配給されている。
がしっかりした物を途中途中で取る意味でも、金を出して買う意味は十分にある。

彼らから買ったのは稗だ。
米などもあったし、既に炊いた状態の物まであったが
さすがに少し値が張った。
カムヨリでは稲作が中心だったが、
他の穀物も利用していた為何も問題はない。

「ちょっと、固めにするか」

流石に持ちにくいのは問題だ。
粥にして、器のままで食べても良いのかもしれないが……。
事前に持ってきていた梅干を潰し、混ぜる。
それに塩を一つまみ。
更に混ぜ込んで握る。

「……こんなもんだろうか」

料理は嫌いではない。
修行の一環でもあったし
食自体にも興味はある。
美味しい物は心を豊かにしてくれる。
父はそう言っていた。

「さて、これは……」

１つは自分の分、そしてもう１つは……。

「嬢に渡すか」

あれで我が主君だしな。
そう言って笑うと、包みを抱えて腰を上げるのだった。