参った。暑い。
　普段汗をかかない体は一歩一歩歩みを進める度に重くなり、抱えた資料は己の汗ばんだ手のせいで波打ちつつある。

「どこかに遮蔽物とか…ないものかい」
「貴様の視界の中にそんなもの、見えているか？」
「…ないね」

　「トトー」を抱え直し、体をひきずるようにして歩く。
　しれっと言ったシャラも、心なしか不機嫌そうに見えた。しかし、それでもシノに比べれば随分と足取りもしっかりしている。羨ましい事だなぁ、とぼんやり思っていると、あっ、と前方から甲高い声が聞こえた。睦月のエンブリオ、ナズナの声だ。

「シノさん、危ないっ！」
「……へっ？」
「ちっ、馬鹿が！」

　干涸らびた地面に体重がかかり、ぱきり、と乾いた砂地の表層が砕ける。途端に飲み込まれた革靴の爪先を見るなり、隣からシャラの腕が伸びて体が上へと引っ張られた。

「…わぁ、危なかったな、シノさん」
「はは…」

　よかったよ、と笑う睦月にへらへらと力ない愛想笑いを返していると、ふわり、と実体化したマリアの羽音が耳元で聞こえた。ついでに、ふう、とオーバーなくらいの溜め息も。

「Grazie、シャラ。シノ、ちゃんと足下も見て」
「うん……気を付けるよ、マリア……」

　本と杖をいっぺんに抱え直すと、くたびれたローブがずるりと肩からずり落ちた。ついでに伸び気味のサスペンダーも片方落ちた気がするが、それを直す気にはなれなかった。
　やれやれだ。
　日や熱気を遮るものもなければ、この土地柄では趣味の魔法植物もろくろく生えていない。

「さっきまでいた涼しげな川辺が恋しいよ……」

　ふはぁ、と心なしか熱い気がする大きな吐息を吐いた視線の先で、大口を開けたハニワがシノを見つめていた。