【Side：Leo／04　colorful】

「おー！　これ綺麗な色ねー。」
「ん、もうちょっと、あかるいのがいいかも、だね」

　一枚二枚、積みあがる。三枚目は、暫く悩んで、やっぱり山に戻される。
　そうして様々な色の布や革がひらひら揺れて、とっても華やか。

　目の前で展開される色鮮やかな試行錯誤に、少女はきらきらした瞳を瞬かせている。

「あの……リオ？　そろそろ決めてしまいましょう？」
「まだはじめたばかりじゃない、だよ」

　服飾を扱う店の中、うろうろ衣服を見繕うリオとリエッタを目で追いながら、ゼルダがそっと吐息を零した。

「リオーリオー。ゼルダにはこっちも似合うと思うー！」
「ん、どれ？　だよ」
「もう、リエッタまで一緒になって……」

　売り場はリエッタの“干渉領域”である10m内の規模だ。店に入ってからずっと、彼女は端から端までひっくり返す勢いで文字通り飛び回っている。店員に注意されないのが不思議なほどだ。

「早く帰りたいねぇ……」

　一方レコはぐったりと、既に商品棚と棚の間に座り込んでいる。何度も試着を強要されて、肉体的にも精神的に疲れきっている。
　大規模一揆の最中だから、なのかは判らないが、客入りは少ないので店の迷惑にはなっていない。

「とはいえリオですからねぇ。あと二、三時間はつき合わされそうです」
「うぅぅ」

　メルンテーゼで近々、夏祭りが開催されるという噂。それを、差し入れにきて早々どこからか──おそらくロザリアだろうとゼルダは中りをつけている──仕入れてきたリオは、案の定人の服を見立てたがる悪癖を出した。曰く、祭りはお洒落をして出かけるものだ、と。
　こうなると真っ先に対象にされるのが、彼の嫁であるコーデル。次いで、あまり服にこだわりを持たないゼルダと、清潔さこそ気をつけるが着られればいい主義のレコの二人だ。
　塔に残っている仲間の何人かもターゲットにされることはあるが、よく捕まるといったらこの三人だ。

「まあ我慢しとけ。一緒に生活してる嫁と、異世界渡航中の仲間。現在の優先順位は圧倒的にお前達の勝利だし」
「も〜、シーちゃん人事だと思ってぇ」
「実際人事です」

　面白がってついてきたシャンテの身も蓋もない発言に、ゼルダとレコの二人は一層うな垂れる。
　シャンテは（彼の世界の）魔術師としては割りと珍しく、服に気を払うタイプの人間だ。今もあれこれ服を合わせてそれなりに楽しんでいる。お気楽だ。

「お祭りはまだまだ先なのにねぇ……」
「まったくです……」

　そう、例え今日服を見つけたとしても、次の差し入れ訪問日にも別の店へと連れ出されるのだろう。
　もっといい服が売られているかもしれない。そんな前向きなわんこ理論に今までよく振り回された二人。想像余裕である。

「ゼルダー、レコっちー！　これ見てこれこれ！　浴衣っていうんだってー！」
「とりあえずこれだけ、あわせてみるよ、だよ」

　そこへ想像を裏切らない、色彩溢れる布の小山を抱えたリオが現れる。
　着せ替え人形役の青年たちは祭までの日数を思い浮かべながら、今度こそ捕まらないための逃亡方法を模索するのであった。