>>>庭園
　>>>夕焼け
　　>>>戦いのあと——生存者はもういない——いくつかの屍がある
　　　>>>ある大柄な一匹の狼

　……同胞たちについては、バカであると思っている。近年、《あかいろ》の入手経路が極端に限られるようになってからは特にだが、我々《キラーウルフ》は、もともとから粗暴で短絡的な種なのである。彼らは、私がこのように屍肉を喰らうのを、臆病であるだとか、プライドが無いだとかいう。だが、わざわざ危険を冒して人間たちに正面から戦いを仕掛ける必要など何処にも存在しない。《いっき》する人間たちと支配者の間で殺し合い（食事に関連しない殺し合いに私は価値を感じないが、人間たちには何か意味があるのだろう）が頻発している今は、平原の其処彼処で新鮮な肉が手に入るのだから。人間は強く、私は合理的な選択をしているに過ぎない。人間に正面から挑んでは敗北した同種の話はいくつも知っている。彼らは死ぬか、そうでなければ“強者に従うのは掟である”などという言い訳を繕っては、人間に媚びてその傘下におさまるのが常だ。“お前は臆病者だ”彼らはいう。バカのバカたる所以だ。《狩人の誇り》それは忌々しき造物主が我々に与えた呪いだ。彼らは己の思考と行動を支配するそれの存在に気付かない。あるいは気付いた上で尚この呪いの制約に従っている……のだとすれば、彼らこそが誇りの欠片も無い、抗いを知らない臆病者であることになる。どちらにせよ私は彼らを見下す。彼らも私を見下している。ならば私は群れの一人ではない。人間は親の仇である。群れもまた親の仇である。そして空さえも親の仇であることを私は理解している。

　——私は孤立する。
　——私は自尊する。
　私は、決して敗北しない。

　……それにしても、今回の死肉はずいぶんと食べやすくて助かる。鎧ごと肉を二つに分割したその上で、幾度も重ねて“小分け”にされているのだ。殺したものを食事にする訳でもないのに、私からすれば非合理的な行為に思える。だが人間の事だ。私には理解し得ない（そしてその必要もない）理由があるのだろう。

　だがしかしまた、私の同胞たちと同様の、愚かしき奴隷が存在するとしても不思議ではない、のか。とも思う。