よくわからない来訪者の方を撃退して、ピクニックの続きを、とルドと準備をしていると、
いつの間にか姿を消していたソルトが戻って来た。顔を上げると、変わった服装の女の子と、共に。

「やぁ、新しい仲間を連れてきたよ」

いつもの調子でいうソルトさんに、お帰りなさい、と声をかけつつ少女を見る。
自分よりも年下の少女。横ではルドもお帰り、初めまして、と声をかけている。

「…どうも、初めまして。有城冬花、です」

少し緊張している様に、見えた挨拶。
アリシロトウカ。
余り自分はいい慣れない響きだと首を傾げていると、きゅう。可愛らしい音がする。
お昼ご飯、なう？と問い掛ける声。『なう』ってなんでしょう。
と思ってると、ソルトさんが『アリシロトウカ』さんをご飯へと誘う。
先程のお腹の音は少女からのものだったようで。ルドも彼女へとご飯を勧め、私の隣を示す。
少し場所をあけながら、名乗り、ご飯を勧め、呼び方を尋ねれば『トウカ』と返ってきた。
トウカさん。トウカさん。正直、同性の子がいるのが嬉しくて。いつもより少しテンションが高かったのは、内緒。
でもこれだけは、聞かなければ。

「ソルトさん。お仲間、ということは彼女も「お友達」ですか？」

そう。とても大事なことだ。紅茶を淹れながら聞いてみる。
皆各々にピクニックを再開しながら。丸一日食べていない、の言葉には驚くしか無くて。
ルドも空腹は敵だと、言っている。余程大変だったのだろうか。

「……うん、僕としては、『友達』になりたかったんだけどね。『難しい』って言われちゃった」
「やっぱり、余程『気が合わないと』、会ってすぐに『友達』になるのは、難しいみたいだ。
ねぇ、『アリシロ』？　君は『無理』とは言わなかったから、その内、僕を『友達』にしておくれ？」

いつも通りの様子で告げるソルトの言葉に、少し落胆する。

「折角なのに、残念ですね…新しく『お友達』が増えるかと、思いましたのに」

言っている間に、ルドがトウカへと食べ物を取り分ける。
何の変哲もないサンドイッチとベーグルサンドだけれど、お腹は少しは満たされるだろう。

「…こう、……行き成りプロポーズをされたような、心地だった。
もっとソルトの事を知れば、なれるかも、わからない」

……プロポーズ？

「……ははは、嫌だなぁ。いくら僕だって、
お金も払わずに会ってすぐの子にプロポーズなんてしたりしないよ」

……プロポーズに、お金？

プロポーズは有料だっただろうか。思わず首を傾げてしまう。けれどトウカもソルトも、
そういうものと認識している様だし、自分の知らないことは山ほどある。分割世界とはそういうものだと、納得した。
同時に話はルドの事へ。「色んな世界」を渡り歩いていると言うのを、初めて知った。
知らなかった、と思うものの、まだ会って間もないのだから、知らないことの方が多くて当然だと、納得する。
トウカはとても興味深そうに話を聞いているし、私は他の分割世界を知らないから、とても見聞きするのは楽しい。
個人的にはトウカの世界の移動手段が便利と言うのはとても惹かれる。
ヒキコモリにとって移動手段はとても大事なのだ。ヒキコモリにとってはとても。大事なことなので2回繰り返す。
もっと聞いてみたかった、けれど。

御馳走様の、後に。

「まずは、腕試しから、かな？」
ソルトの視線。そろそろかね、と問いかけるルド。
ということは、とさっさと空になった器を仕舞いだす私。
「…来客の多い日ですね？」
三者三様の反応に、トウカの気配が変わる。けれど。

「……たまには、こっちから出向いて行こうか？
ねぇ、『ルド』、『クロ』、『アリシロ』？　頼りにしてるよ？」

ソルトは声をかけ、迷いなく先にゆったりと進んでいく。いつもの笑顔で。

「……あんまり気負わなくて良いからな」
すばやく身を整えたルドも、トウカへ声をかけ後を追う。
だから私も笑う。
「大丈夫です。ソルトさんも、ルドさんもお強いですから。安心して挑んで大丈夫です。
守って下さいます。傷を負うなら癒しますし、少しでも怖ければ、私も守ります」

だって私も、守られる側だから。でも、その分、支えたいのだから。そのために、いる。
ぽん、背を叩いて二人の後を追う私の後ろから、彼女の気配がする。

——ああ、きっとこれから、4人で、歩いて行くのだなと、何処か、確信して。不思議と嬉しくて。笑った。

　沈黙する。眼に入ったものを認識して沈黙する。
　狼は良い。あの粘着質なのも、すでに一度見ている。『そういうものである』と、青年はこの世界を訪れてからの出来事で経験し、学んでいた。——が。

　青年は、ゆったりと笑んだ。

　青年は、人面のそれを、とりあえずは、食物として、認識した。

　潰す方向で行く事になったらしい。

じい、と目の前の其れを見る。
少なくとも自給自足の生活では見た事が無いものだ。

ルドも食材だと認識しているようだし。自分の知識が足りないのだろう。
作って欲しいと振られたと言う事は、食材と言う事だと、認識した。

にこり。笑顔で尋ねた。

視線を外すタイミングを、うっかり逸してしまった。
これはこれで、別の意味で怖いと感じる笑顔だった。

無表情の背後に、雷めいた衝撃が落ちる。
三者三様の笑顔を代わる代わる見ては、数秒の沈黙。

毒された瞬間だった。

　やってみる方向で行く気らしい。

皆を振り返り、問う

そこからはたと、顔をあげて。