元素の世界「メルンテーゼ」
わしらが今居るこの世界ではエンブリオと契約する事により種々の恩恵を得て生活してきたと言う。
逆に言うならば、エンブリオとの契約無しでは今までの生活を維持する事すら困難になるという事。

新王が世界各地のネクターを根こそぎ蒐集した理由は民の弱体化を進め、
自らの権力を確固たるものにせんとする為である——


と一揆を起こした者どもは言うが、話は半分程度聞くに留めておくべきじゃろう。
わしらはあくまで異界の研究者であって、この地に生きる者でも傭兵でもない。
研究対象の消失を望まぬが故に一揆とやらに助力しておる事は、努々忘れる事のないようにせねばならぬ。

まあ、政治がらみの事は今は置いておくとして。


手にした赤い花をくるりくるりと弄びながら思う。
「ネクター」とは一体何か。


ネクター。
この世界にしか咲かぬ事以外はとりたてて特殊なところがあるようには見受けられぬ、ただの花。
生息地が限られているのかとも思うたが、現王が独占しようとする前は其処彼処に咲いていたと言う。
鮮紅色の花弁が美しくはあるが、言うなればただそれだけの事。
なにゆえエンブリオとの契約媒体がこの花でなければならぬのか——

誰にともなく呟き、虚空を睨む。
知らず漏らした嘆息は、誰に聞かれる事なく宙へ消えた。

妖精型のエンブリオがひらひらと近づいて、様子をうかがうように首を傾げている。

しばらく後、その後ろから少年もやってきて、妖精の羽をひょいとつまみあげる。

（手袋を着用する