世界を渡る能力者と言うのは気ままなヤツが多いんじゃないだろうか？

ふとそんな事を思う。
メルンテーゼは今や混沌とした世界になっている。
他所から色んなヤツが入り込んできて世界の秩序や在り方に関わろうとしているのだからある意味祭りっぽい。

色んな世界から色んな能力を持ったヤツが集まり徒党を組んでメルンテーゼの騒ぎに参加する。
定番の種族や能力者もいれば、まったく見た事のない種族や戦闘能力を持ったヤツもいるんだから見てて飽きない。

なによりもこの世界に来た時に自分の補佐役として【エンブリオ】という小さな生き物と契約する事になったのにも
驚きを隠せなかった。
この世界にいるヤツは皆そのエンブリオを連れている。
オレの所にやってきたのは、小さな異形の獣だった。　
何処からともなく現われて最初からそこが自分の居場所だと言わんばかりにオレの右肩へと乗っかってきた。
くつくつと喉を鳴らして、顔をすりつけてくる。
不思議な事にオレもソイツが此処にいるのが当然であるような気がしてならなかった。

「お前の名は？」と尋ねてみた。

話せるとは思ってなかったが、駄目元で聞いてみたのだ。
獣はクックッと喉を鳴らした後、少し低い女の声で己の名を名乗った。

「ヒルダ」

それがオレのエンブリオの名前だ。
それっきりヒルダが人の言葉を話す事はないが、こっちの言葉や考えは殆ど理解してくれているので困る事はない。
名前とあの声からしてこの獣はメスのようだ。
一応レディとして扱うとしよう。



しかし、ヒルダは時折　一緒に組んでいるグレンを見つめているが、もしかしてああいう堅物な男が好みなんだろうか？
だとしたら趣味があんまりよろしくないと言っておかねばなるまい。



ああいうお固い脳筋野郎は色々面倒くさい場合が多いからなぁ…

そういう言葉に慣れていないのか、少女は赤面するばかりだった。

端的に言うと恥ずかしいのだ。
どう見ても自分は“混じり”だし、格好は東方の田舎者っぽいし、何より……

そうやって俯いていたのでルプスの表情には気付けなかったりした。
そしてルプスのもう一つの言葉に顔を上げる。

……ええと。

それはつまり……

まだらは目付きが危ない！

銛を手に身構えると、周囲に目を配りつつ意識を集中する…