予約していたホテルは予想以上に大きく、豪華で、清潔だった。
木造作りに煉瓦で補強された一般的な宿屋を想像していたので、その瀟洒な佇まいに思わず圧倒される。
入り口前には噴水があり、一回のロビーは全面ガラス張り。二階は大きなテラスになっており、軽食をして寛げるようになっていた。

ホテルに入ってさっそく、目につくのは大きなシャンデリアとビロードの絨毯。
靴で歩くのを少し申し訳なく思いながら、受付の綺麗なお姉さんに声を掛ける。
教授が付いてきたら変なこと言い出して面倒だっただろうなと、どうでもいいことを考えながらキャンセルの手続きをすること１０分。
予約は2週間で取っていたので、そのうち１日分は５０％の返却、2日分は７０％の返却、残りは全額返却ということだった。
非常に良心的である。

出てきた大量の資金が両手にのしかかる。

ついでに地図を見せもらえるようお願いしてみると、分かりやすい周辺の簡略図と、細かい大きな地図とが出てきた。
さすがに一級ホテルである。
受付のお姉さんも心得たもので、周辺施設のことはきっちり暗記していたので話は簡単に済んだ。
アクセサリーを見せて、地図に該当するような場所は無いか見てもらうと、一目見ただけで場所を教えてくれる。

ちょっと照れながらクスリと笑った受付のお姉さんに説明を受ける。
アクセサリーに付いていた模様は確かに周辺の地図と一致しており、点があるのは王城付近の一軒家だとのことだ。
大きな地図を見せて場所を教えてくれる。
目的地周辺の貸家は二階建てで非常に見晴らしがよく、調度品等も完備されているとかで、城の官僚達ご用達の貸家だということだ。
成程、物件としては確かに文句なしである。
一体幾らしたんだろうかと考えてしまうのは、貧乏学生の性分だろうか。

手際の良さを褒め称えながらホテルを出る。
確かにこの豪華なホテルに滞在しながら一揆について考察する、というのは何か違う気がしないでもない。
デモ行進で険悪になっている街中を考えれば、王が弾圧に乗り出し、ホテルを外出禁止にしたりする可能性もある。
あまつさえ、実際に一揆に加担して内部からも考察しようとしているのだ。
自由になる拠点を手に入れておくというのは理想的ではあった。

ホテルを出て噴水を超えれば、下り坂の先には教授が見える。
席から立ち上がり、オープンカフェの端から遠くの景色を見ている。
王城は山城であり、その城下町であるここは坂が多い。周辺は森に囲まれ、険しい山や深い渓谷に囲まれている。
その為、見晴らしの良い場所に立てば、このように城下を一望できる場所もあるのだ。
教授が立っているのはそんな見通しの良い場所だった。

鳴丸の目に飛び込んできたのは、スクール水着へと着替える半裸の女性達であった。
オープンカフェの裏、少し離れた位置に学校があるのだが、屋外にある水泳用の更衣室が老朽化している。
採光口の窓が壊れて開いており、斜め上から中が覗けてしまうようになっていたのだ。

そして、それは当然のように起こった。
騒がしい声に気付いたのか、着替えていた女性陣から悲鳴が漏れる。

アスタリスクを先頭に走り出した一同は、テーブル横に置いたままの荷物に手をかけ、一目散に逃げ出した。
鳴丸が大型のリュックを背負い、アスタリスクは革の鞄を手に取る。
スラントは手持ちの荷物に手提げを加えて忘れ物がないかをチェック。
一瞬アスタリスクが持っている鞄と同じ柄の鞄を見つけて手に取るが、それが後ろの座席に座っていた別の客の鞄だと気づいて丁重にお返しする。
黒服の男が柔和に笑って荷物を受け取った。

警備の兵士が走って駆けていく。そんなことはおかまいなしに、オープンカフェから学校の更衣室を見る影が一つ。

少女は誰かの視線に気付く。

少しキョロキョロしてるうちに視線の主に気がつく。

その容姿から、女の子と勘違いしたらしくガッカリする。

とりあえず貰っておくことにした。

　　　

　　　　羽織ったローブのフードを深く被り、大鎌を手にし対峙する。
　　　　　　うっすら、彼女の周りを薄い霧が漂っている様に見える。