「さて…と。どう料理したものかしらね」

　視線の先には、ロープでスマキにした男が転がっている。

　言うまでも無く、先刻撃破した例の王様の兵士だ。

———ぐぬぬぬぬ、このオッサンめぇ……。ねーちゃんにSMプレイしてもらえるなんて、うらやまけしからぐぱぁっ！？

　一旦男から離れ、ティーを小突く。

　「これがSMプレイに見えるなら貴方の目は意味無いわね、後ろから破壊してあげてもいいのよ？　あ、でも目がどこかわからないから、その宝石でも砕けばいいのかしら？
それはさておいて、少し黙っててくれる？
貴方の声はあたし以外に聞こえないのだから、一々貴方の相手をしていたら、この変態的な格好をした男から可哀想なモノを見る目で見られてしまうじゃない。
そんな屈辱を味わうなんて、御免被るわね」

———屈辱を味わうねーちゃん……？　はっ！　要するに『悔しい……でもビクンビクン』っ！！

　ティーの宝石部にアイアンクロー。さすがに沈黙したわね。

「女ぁっ！！　さっきから何をこそこそやっている！？」

　怒号（怯えを隠すための精一杯の虚勢ってのが丸分かりだけど）が辺りに響き渡る。

　それ見たこと。こうなるから黙ってろって言ったのに。

　ため息を吐き、軽く微笑を浮かべて男の方へ振り返る。

「ふふ、御免なさいね。こちらの話よ。それと……」

　間合いを詰め、男の首筋にナイフをあてがう。

「ひっ…！」

「自分の立場というものを弁えなさい…。あたしの言葉が理解できたなら、首を一度だけ縦に振りなさい」

　能面のような表情を作りつつ顔をずいと近づけ、努めて冷たい声音で言い放つ。

　兵士が首を一度振ったのを確認し、少しだけ顔を離す。

「ものわかりが良いボウヤね。それじゃ、早速質問をさせてもらうわ。
……ああ、もし貴方が嘘を付いてると感じたら、怒りで手元が狂ってしまうかもしれないから気をつけることね」

「くっ…！　この人でな…！」

　…っ！

　まだ言うのね、この…！

———ふあああぁぁぁっ！！　我慢してたけどもう限界だぁ〜！！
こ、こんなねーちゃんのドS言動を間近で見ちゃったらもうボク、ボク……ら、らめええぇぇぇぇっ！！

　サクッ。

　あ…手元が狂って、軽く首筋切っちゃった…。

「〜〜〜！！」

　あ、泡を吹いて気絶した。

　ま……まあ、また立場がわかってない発言しようとしてたっぽいし、戒めってことでいいよね……うん！

　とりあえず、気絶しているなら好都合……。

「ティー」

———はぁ…はぁ………ふぅ。何だい、ねーちゃん。

「ほんとにちょっとの間黙ってなさい……この馬鹿ぁっ！！」

———や、ゴメン、ゴメンって。いや、でもね、ボクもどうしても迸る熱いパトスを止められなかったというか、もうここまで来るとサガなの宿命なの仮●ライダーなの。
……ちょっと待ってねーちゃん、その呪符はほんと待って？　それ貼られたらボクほんとに意識失っちゃうから、だから落ち着いて素数を数えよう？　
ほらご一緒に、1.2.3.5.7……あれ、1は素数じゃないっけ？　間違えちゃった、てへぺろ☆
……あ、ゴメンホント有頂天になってました、調子こいてすいまえん；；　ほら、謝ったから笑って許し……GYAOOOOOOOOO!!!!!






　どっと疲れたけど、どうにか尋問は無事に終了した。

　……とは言っても、あまり収穫は無かったのだけれど。

　質問と回答を簡単に纏めると、こんな感じだったわ。


Q.王ってどんな奴なの？

A.ネクターを大量に保有していて、凄まじく強いと聞いてはいるが、会話した事はおろか、顔を見たことすらない。
ほ、本当だ！！　嘘は言っていない、信じてくれぇ！！

Q.王の兵力規模はどれくらい？

A.正確な規模はわかりませんが、1000人単位の兵が攻めてきても十分に対抗できるだけの戦力はあるみたいです。

Q.水浴びしたかったの？

A.したかったです……(´；ω；`)

Q.———ロッテ殿は水浴びしないのですか？　はぁはぁ……

A.声真似しても無駄よ、この駄杖！


　結局、何もわからないということがわかった程度ね。

　まあ、末端の兵士から引き出せる情報にそこまで期待はしていなかったのだけど。

「とりあえず彼の希望通り、そのまま川に流しておいたけど…喜んでもらえたかしらね？」

———ねーちゃんも、割と酷いこと平気でするよね〜。

「あら、情けをかけて後ろからバッサリやられるなんて展開、あたしは御免だわ。
ま、ちゃんと水に浮くように魔術を施しておいたから死にはしないでしょ。そのうち親切な誰かさんが拾ってくれるんじゃないかしら」

———ふ〜ん、助けてあげたんだ？

「殺せって依頼が出てたなら話は別だけど、そうじゃないしね。まあ、『人』としての最低限の情ってやつかしらね」

———人としての…ねぇ。

「……何か言いたそうね。言ってもいいわよ……言ったら放流するけど」

———あっはっは、今は止めておくよ。言ったら今度はホントに放流されそうだしね〜。

「賢明な判断ね。ま、さっきのはあたしなりの冗談よ、適当に流しておいて頂戴」

　はぁ……こんなことで感傷的になるなんて、何だか自分が嫌になるわね。

　もう随分昔に受け入れたことじゃないの…。

　だから今更、事実を突きつけられたくらいで心が揺らいだりなんかしない。

　……しないんだから。