「あぁーあ・・・なんかいやなもん見ちまったよな・・・・・・」

うんざりした表情で九が言う。

「鬼畜の類じゃなくて悪魔だっつーの。」
「一緒にされたら困るよねー。」

言いながら、ねこっぱちが器用に九の腕にばんそうこうを張っていく。
特に重大な外傷はないけれど、九は体のいたるところにかすり傷ができている。


遡ること一刻ほど前。
この星屑の小川に差し掛かった時に兵士3人組に妙ないちゃもんを付けられたのである。
通りかかった九たちが悪いとばかりに問答無用で襲い掛かってきたのだ。
そもそも、公の場で全裸に近いような格好で水浴びをしている兵士など、ろくなものではない。
返り討ちにしてやり、逃げ出した兵士たちの代わりに、九たちがこの場所を陣取ることにしたのだ。

「つーか、スフィアは大丈夫だった？」

小川で水をくんで戻ってきた少女に声をかける。
裾が破れた服を着ている小柄な少女は首を縦に振る。
突然の災難に驚いているようで多少顔色は悪いもの怪我はない。
水は、九のために汲んできたものだろう。
ひょんなことから旅の道連れになったわけだが、気もきくし、しっかりしている。
あとは契約書にサインさえしてくれればいいんだけどなー、と九は思う。
多分ねこっぱちもそう思っているに違いない。

「オレみたいな可憐で力弱き美少女を集中攻撃するとはカスだな、あの兵士ども。」

ねこっぱちもほとんど無傷に近い。
つまり満身創痍なのは九だけであった。

「あーもー、役に立たねぇネコウモリだなー、ねこっぱち君はよぉー！」

盛大なため息とともに、絆創膏が張り終わったほうの手でワタアメの様な髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜる。

「そこはさー、オレの事を身を挺してかばうとかそういうことできないわけー？！」
「ボクのキュートでコンパクトな体じゃ無理でしょ。」
「ほんと使えねぇちんちくりんだな！」

悪態をつきながらも本当に怒っているようには見えない九に、スフィアは困ったように微笑む。

「はい、手当終わり〜。」
「可愛いオレの顔があまり傷つかなくてよかった。」
「ほんと、あまり大したことなくてよかったね。」

ねこっぱちが頷く。

「ボクが集中攻撃受けてたらもっと損害大きくなるところだったよね。」
「なんで？」
「ボクのほうが可愛いからさー。世界の損害だｙ・・・ふが。」

九がねこっぱちの顔を鷲掴みした。

「うるせー、駄ネコ！」