道中の休憩がてら、木陰で休むことになった一同。
現在、オフィリィ・萌・トーコ・カルスのチームαと別れ、平原を進行している。
便宜上、あちら側を『α』　こちら側を『β』と呼称。
いずれ正式な名称が付くであろうが、仮名称として使用している。
あちらとこちらと称するだけでは、今度も支障をきたす可能性があるためだ。


クロは手近な意思に腰を下ろすと、懐からスマホを取り出す。
着流しであるクロの外見から見ると、明らかにミスマッチではあるが…それはこの世界から見ても同じ。
この世界にはありえない技術であるのだから。

手馴れたように起動、製品のロゴが表示され…その下に『Ver.W』の羅列。
本来なら無い羅列をクロは気にしない。
ポーン、と起動し終わった合図がでると…画面の端から白い子犬がひょこっと顔を出した。
何故か半眼であるのだが、違和感は感じない。
それが当たり前であるかのように。

『やア、クロカネ！
　調子はドうだイ？』

子犬は画面の中央に移動すると、そんな言葉を発する。
発せられた音声は片言であり、何も知らない者が見れば…ただのプログラムと思うだろう。

だが、その実が人工知能を遥かに超える生きたプログラムであると気づく者はいない。

「調子も何も、シロなら分かっているじゃろう？」
『分かっテないナあ、挨拶じャなイか。
　クロはそうイうとコろがダめなンだよネ。』

軽く嘆息してみせるクロを見、軽快なノリで喋るシロ。
親しげに話してはいるものの、シロがここまで気を赦す者は少ない。

主と認めている従者長。
友と認めているバイト狂。
『同じ付喪神』であるクロ。

他にもそれなりに親しく出来る者が数名いるが、ここまで表情豊かに話すのは稀である。
それだけ、人見知りなところがあるのだ。

それを知っているのは…ごく限られた者たちだけである。


『とこロで、次ハどうスるの？』
「次？」
『いろイろ作ッてるジゃなイか。
　向こうホどの腕ハ何故か振るエないケど。』
「仕方ないじゃろ、こういう世界なんじゃ。
　それにこういう世界ならば、もう一度鍛えなおす甲斐もあるもんじゃ。」
「そうイうもノかなァ…」

ひょこりとスマホから飛び出ると、シロは座っていたクロの膝の上に収まる。
あくびを一つし、眠そうに眼を閉じて伏せた。
軽く頭を撫でてやると少し嬉しそうに笑んでみせる。

『じゃ、堪能シたしソろそロ行こうカな。
　葵がお仕事デ忙しいカらね、構ッてもラいづラいんダ。』
「本当に葵が好きじゃな…」
『だっテ親と同義だモん。』
「…そうじゃったな。
　こちらは特に問題は無い、宜しく伝えておくれ。」
『了解したヨ。
　またネ、クロカネ！』

最後にひと撫ですると、シロはスマホへ飛び込んだ。
飛び込む間際にそっと尾がクロの頬を撫でる。
それが挨拶であり、礼だったのか。

するりと画面端にシロがスライドし、ただのスマホへと戻る。
厳密に言えばシロの分け身がいるわけではあるが、あくまでも補助的なことしかできない。
何よりも…感情が無い。
あくまでも口頭で告げるとそのとおりにサポートしてくれる程度のことなのだ。

軽くメールの確認をし、スケジュールの送信をするとシャットダウンする。
するりと袖にしまうとクロは立ち上がった。


さあ、今日も頑張るとしよう。

目をそらし、遠くを見つめて、何か思い出をかみ締めている様だ。