女王の間。
そこで出会った女王は、木々に護られた球状の泡のようなモノの中で、目を閉じたまま全くの身動きもしなかった。
今近くにいる妖精たちとさして大きさは変わらない。だがそれでも、天使と見紛うような光を放つ羽根と、その身に纏う何とも言えない優しげな雰囲気が彼女の強い存在感を感じさせた。

あたしがその様子に息を呑んだのは、ほんの数瞬だったのか、数分だったのか。
女王の——おそらく、彼女のものであろう澄んだ声が、頭の中へと直接語りかけるように響く。




彼女の話とは、こうだ。

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世界の周辺には、数え切れぬほど無数の世界が存在している。
それらの世界は互いに繋がっており、特別な力のあるもの、あるいは特別な力を利用するものは、
それらの世界を行き来することができるという。
その特別な力のひとつとして、彼女ら妖精の力がある。

"女王"の治める妖精界では、その力を受け、増幅して他の「力を持たぬ者」をも異世界へと移動させることができる
『ゲートキーパー』としての素質を持つものと、"導きの妖精"が契約を交わし、世界を渡る力を持たない他の妖精たちや、
妖精と心を通わせるものたちを様々な世界へと渡してきていた。

通常、『ゲートキーパー』は妖精が自発的に探し出してくるものではなく、自力で、
あるいは先代の『ゲートキーパー』によりこの妖精界へと辿り着いた者がその力を継承するのだが、今回は事情が違うのだという。


それは、『闇』の存在。


唐突に現れた『闇』と呼ばれる存在——あるいは事象なのか概念なのか——が、無数の世界を食い荒らし始めたのだ。
『闇』に荒らされた世界は、さまざまなものが蝕まれ、争い、朽ち果て、滅びる。
やがてはその存在そのものが消滅し、一切の無と化してしまうのだ。
じわじわと侵攻を深める『闇』に女王が気づいたとき、既にそれはこの妖精界へも入り込みはじめていた。

女王は、妖精界をも飲み込もうとするその力に対抗するために、自らの身を構成する力をまでもを注ぎ込む。
それにより『闇』の一時的な封印に成功するのだが、力を使い過ぎたため、現在のような眠りに近い状態になってしまった。
しかも『闇』はいずれ簡易封印から解き放たれ、再び無数の世界へとその力を及ぼすであろうと。


それに対する力——"運命の星"を集めるため、妖精女王は残る力を以って、無数の世界へとその力の欠片たる"羽"を飛ばした。
しかし、首尾よく"運命の星"たちにその羽が届いたとしても、一人ひとりの力では到底『闇』に対抗することは難しい。
まして『闇』は封印の状態にあってなお、その力の残滓により、様々な世界を犯しはじめている。
彼ら"運命の星"の力を結集させなくては、やがて復活した『闇』により、また多くの世界が滅びを迎えてしまうのだと。
その為には、『ゲートキーパー』の力がどうしても必要になる。


先代のゲートキーパーや導きの妖精は、妖精界に『闇』が入り込んだ際に、それに飲み込まれた。

そこで、"導きの妖精"としての力を受け継いでいたレーヴェを別の世界へと送り、
『ゲートキーパー』となる素質を持つものを探していたのだ、というわけだ。


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　兵士たちが倒れ際に何者かの名を呼ぶ。
　アレックスが開いたゲートから姿を現した"運命の星"の一人がそれを聞いて訝しげな表情をした。

　痛いところを突かれて黙り込む、少年と青年の間くらいの男の様子に小さく笑った女は、脳裏に一瞬浮かんだ光景を思い返す。
　それは、ありえたかもしれない自分たちの姿。兵士に破れ地に伏した仲間たちと自分。
　あるいは勝利はしたものの、全く違った経過を辿っていた戦いの光景。

　それらはいずれも、ゲートを開いた瞬間に垣間見えた、「別の世界」。

　ほんの少しの違いで、世界は如何様にも姿を変える。
　今まで世界を繋ぎ、渡り歩いていた際にはそういったことは、あまり感じたことはなかった。
　ここが彼女の出身世界であるが故なのか、それとも『闇』の気配の濃い場所であるからなのか。

　妖精の声にふと我に返った娘は、ひょいと肩を竦める。

　ゲートを開いて呼び出したあと、繋いだ世界とのリンクが途切れる一定時間までならば、再び同じゲートを開き直せる。
　そして開いたゲートに、反論ごと相手が吸い込まれた。
　いつものことなのか、周囲にいる誰もがそれを気にした様子はない。

　いずれにせよ、情報収集は必要だ。
　アレックスはその名にどこか引っかかりを感じながらも、仲間たちとの話し合いに戻るのだった。

戸惑いながら女性とカフェを交互に見ている。物凄く不安そうだ！

突然掛けられた言葉に、どこか小気味の良さを覚えながら振り替える。

とはいえ、誘ってくれた側も女子のようじゃが、という言葉は呑みこんで。