昔の夢を見た。
ただその夢は歪んでいた……。




注）グロ注意


砂岩の町、ナギューロ。
中東と極東の中間に位置するこの小さな町で、ある日殺人事件が起きた。
衛兵が現場を調べる中、あまりの背徳的な凄惨さから教会の聖騎士にも協力の要請があった。
この事件の調査がヤサカにとって始めての任務だった。
このとき従者であったヤサカは師範に連れられ、事件の解決に従事した。

殺害現場はまさに背徳的だった。
遺体はまるで食肉処理をするように血抜きを施し、丁寧に部位ごとに解体され、
冷蔵庫に仕舞われていた。
ただ、この現場のどこを探しても皮膚だけはなかったのである。

しかし、犯人はすぐに見つかった。
熱心な衛兵が皮なめし職人の店をしらみつぶしに調査していった結果、
ある店の調査の途中で失踪したのである。
犯人の名前はラム・ドゥォ。
皮なめし職人として、この町に潜んでいたネクロマンサーだった。
師範とヤサカは報告を受けるやいなや、店に結界を敷き、二人で乗り込んだのだった。

一階から地下室へと足を踏み入れたとき、二人の目に飛び込んだのは、
皮を剥がれ足を吊るされた衛兵の遺体だった。
そして、その奥には血にまみれたエプロンを身に着けた男が、
笑みを浮かべながら裁縫をしていた。
その手にあったのは人の皮だった。

ヤサカは小銃を構え、師範は祝福された短剣を握り締めながら、
奇跡の言葉を唱えなつつ男へ歩み寄る。
聖騎士の侵入に気づいた男は笑みを浮かべたまま、
呪いの言葉を口にしながら、遺体を吊るす縄を切る。
すると、床に落ちた遺体が自ら起き上がり、迫る聖騎士に立ちはだかった。
その遺体の頭をヤサカが即座に撃ち抜く。
すると銃創が一瞬光を放ち、その遺体はぴたりと動かなくなり、倒れた。
それでも男は笑顔を崩さず、次なる詠唱を始めていた。
そして師範の詠唱も滞りなく続けられる。
師範はまだ、五歩ほど間合いが離れているうちから握り締めた短剣を男に向けて掲げる。

それは『救済』。悪徒から呪われた力を取り去る奇跡。
聖騎士のみが行使を許された奇跡の言葉。

男が紡ぎだす呪いの言葉から力が消え失せて……

————

男が紡ぎだす呪いの言葉から力が消え失せていく。
そして男は自分の喉を押さえながらもがき苦しみ始め、
目から、鼻から、口から、血を流し始める。
そして男が苦しめば苦しむほど短剣が纏う輝きは強さを増し、聖騎士に力がみなぎって

歪んでいる。
奇跡の言葉のみならずその記憶まで歪んでいる。