—ノウァのお話　

　メルンテーゼで出会った二人の少女、金髪碧眼の少女エリカとオッドアイで黒い翼を持つ人形のアニマ。
　アニマはエリカの命令で、絵本の中から登場人物を呼び出しエンブリオとして使役する事ができるという。
　アニマの能力は、深雪の使う召喚術と同じ様なものだと思われるが、絵本から登場人物を呼び出すという行為は、自分の幼き日々の記憶を掘り起こすのに十分な引き金となった。
　アニマともし、私が少女の頃に出会っていたならば、私はあの契約をせずに絵本の中の少女オリフィアと出会う事ができたかもしれない。
　……あの契約とは？
　頭の中に靄がかかったように、はっきりと思い出せない違和感。
　少女の頃に過ごしていた鏡の世界は、私とお父様とお母様以外誰も住んでいない場所だった。
　勿論、絵本の中の人物を呼び出して欲しいと両親に頼んだ記憶はない。
　鏡の結界が崩壊するまで、実際にお母様に命を狙われた事はなかったが、それでも幼心に自分が疎まれた立場だということは十分に察知できた。
　いつ自分が、両親から必要とされなくなるのか恐れを抱きながら、絵本の世界に希望を縋った陰鬱な思い出。
　私は確かに、両親ではない誰かに自分の心を吐露したのだ。
　そして、望み通り夢の中の世界にだけ存在する絵本の中の少女、オリフィアと出会ったのである。
　
　私が読んだ絵本『魔王と魔女』
　あの本に、もしかしたら靄のかかった記憶を晴らす手がかりがあるのかもしれない。
　私は久々に、異送鏡の中にある少女の頃に過ごした家に戻ってみることにした。
　幸い、目的の絵本のある場所は確りと覚えている。
　私は鏡の中に溶けるように入り込むと、絵本のある書斎にやってきた。
　オリフィエルと私以外に、この部屋に入れるものは誰も居ないため、記憶通りの場所に絵本はあった。
　絵本を手に取ってパラパラとページを捲ると、絵本の内容に違和感を覚えた。
　確かこのお話は、魔王を封印するために国の人をすべて巻き込んで動物や植物に変えてしまった悲劇のお話で、その中にいたオリフィア王女も魔王と一緒に封印されたはずである。
　今手にとって読んでいる本は、魔王だけが魔女に封印されてオリフィア王女もヴィオレット王国の人々も幸せに暮らしたと締め括られていた。
　そして、少女の頃に自分が読んでいた絵本の表紙は赤色だった記憶に対して、今手にとっている絵本は黒色の表紙になっていた。
　
「何か、強い魔力が掛かっているみたいね。解呪……できないかしら。」

　魔法知識には多少自信はあるが、この絵本から感じる呪いの解呪は自分の手に負えるシロモノではないように思えた。
　
「あ、そういえば深雪が居るじゃない……癪だけど、解呪をお願いしてみようかしら。」

　深雪に頭を下げるプライドよりも、今はこの靄がかかったような記憶のほうが不愉快で仕方がない。
　私は本を閉じて懐に仕舞いこむと、再び深雪達のいるメルンテーゼへと戻っていった。

（深雪の頭をペシッと叩き）

（メモを取り出し何か書きとめそれを見せた。）

【兎屡怒】

＞深雪ちゃん

＞ノウァさん

手を振りながらそそくさと消えた

ニア【アイコンが間に合わない為次々回に続く…】

　　　　　　　足元で頻りに体を擦り付ける

見慣れぬ涼しげな制服が目に留まったのか、一人の人物が声を掛けてきた。