『行き当たりばったりな冒険　〜ツルギの場合〜』



　とある世界、GC2075.08.18.17:35、とある廃墟にて——


　電脳の世界から現実の世界へと帰還する。本体に届く、
周囲の騒音。何故かぽちの悲鳴とマスターの舌打ちが
聞こえた。現実では何らかの騒動の真っ最中のようだ。
嗅覚の機能が硝煙の匂いを確認する。
「よし。来週はデートの予定が入ったぞ」
　パンドラと名乗る謎の女性とデートの約束を取り付けた。
デートという未知の体験に期待しつつも、俺の中には、
ただ冷静に受け止めているだけの部分がある。結局は
プログラムが最適と下した判断だと。謎の女性と接触し、
情報を得るため、罠に嵌めようとしているだけなのだ。

　俺はゆっくりと目を開けた。砂煙と廃墟。銃声と悲鳴。
「……あ。俺は思考停止したのか」
　そういえば探索中に機能停止したのか。
　そして、謎の女性に助けられたのだ。
　どうやら現在も戦闘中らしい。覚悟するしかないようだ。
「矢っ張り……マスターに怒られるのは確実かな？」



　数発の銃声が響いた。
　ツルギの停止した場所とはビルを挟んで逆の位置からだ。
「うぇぇぇぇっ！？」
「ぽち！　射程外へ出ろ！　誤って撃たれるぞ！」
　ぽちの奇妙な悲鳴と怒声。俺は陰からこっそりと覗き込んだ。
　そこには戦闘用のスーツとヘルメットに身を包んだ人物が、
体格も同じ装備も手にした人物が二人居るではないか。
俺達のマスターであるショウと、彼と同じ装備に身を包んだ
人物が対峙していた。
「ボクのマスターはどっちですかぁ！？」
　ぽちは左右に身体を振り、二人を見比べているようだ。
偽物は容姿までもマスターに似ているらしい。
「……面白いな。それも『核(コア)』の機能か」
　片方が言った。
「複製が何を言う。正体を現せ」
　片方がそう返した。
　睨み合う二人。しかし、俺は知っている。電脳の世界で
出会った謎の女性が教えてくれた。
「お前がディバイダーだ」
　俺は片方に銃を向けると躊躇うことなく引き金を引いた。


　仕留め損なった上、逃げられてしまった。
　自慢じゃないが、俺の射撃の性能は良くない。射撃で
仕留めるのは無駄だったようだ。
「何でアイツが偽物って判ったの？」
「何でって……妙な機械を持ってただろう。アイツが、
俺を再起動させたんじゃないかと思ってね」
　謎の女性について触れるのは止めた。
「……俺はウイルスに感染してるかもな。
早くメンテナンスを受けないと……やばいかも」