「一応、調整はしておいたが……」
そう言って女———ミチエと言ったか、目を隠すかの様に顔を髪で覆った女から渡された刀を手に取る。
ルリアンナから渡された材料で加工を頼んだソレは自らが想定した出来栄えよりも随分軽い。
「こりゃぁダメだな」
手に持った刀を虚空に向かって振るう。
振り始め、鋒から青白い粒子となり、振り終わる頃には手の中で刀は元の材料へと変化していた。
「……PSか」
「あぁ」
PS———Power Stoneと呼ばれる魔力が蓄積された石だ。
これは通貨として取引に使用されると同時に武器等の作成初期段階に置いて素材に練り込む事でその形を固定する効能もある。
この時に練り込むPSの量は素材に依って違い、基本的に構造が複雑な素材ほどより多くのPSを必要とする。
使用する量が多すぎても少なすぎても素材とPSが分離してしまい形を保つ事が出来ないのだ。
「どうやら俺の仕事は無くなった様だな」
「応、すまんな徒足でよ」
ミチエに少し遅れその巨躯を静かに現した男は素材のままの材料を手に持った俺を見て事情を察したようだ。
この男、に限らず同行する事と成った数人の事は詳しく知らず、知ろうとも思わない……が、その中でも異質な空気を感じる男だ。
男は必要事項だけ確認して満足したのかそのまま踵を返し来た方向へと再び姿を消した。
「求めているわけではないが……
　奴もお前ももう少し愛想という物を使えぬのだろうか」
「求めてねぇなら言うんじゃねぇよ」


翌日の予定を聞かされ、去って行くミチエの背中を見送る。
本来ならばこういった作製は自分で行えた、無意識に左肩を残っている右手でさすってしまう。
今回の失敗に関してはPSの採集が思ったよりも捗らなかった為に誰が行った所で結果は同じだが、その行為を自らで出来ないという事に焦れを感じる。
舌打ち。
馬鹿馬鹿しい、自分は何時からこんな女々しくなったのか。
すっかり減ってしまった髪をくしゃくしゃとかき回し下らぬ考えを頭から散らした。