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　彼の農作業を縁側越しにただ眺める日々は、控えめに言っても苦痛だった。だから、動ける程度に回復して初めてしたことは、リハビリがてらカメルの手伝いを申し出ることだった。初めは無理をすることはないと言っていた彼も、申し出がただの義理立てでないことが通じると、快く承諾してくれた。

　彼のような人間が必死で作業をしているのに自分が動いていないのは申し訳ないという思いも、確かにあった。しかし手伝いを申し出た理由はそれ以上に、自分の先行きが全くの五里霧中であったことによる。戻るべき場所も、成し遂げる目標もない中、とりあえず何かを成して、生きている意味を得たかったのだ。まさに何かを作り、在る意味を成している彼をただ眺めるだけの日々は、これ以上耐えられるものではなかったのだ。

　そうして、農作業を手伝う日々が始まった。自分で言うのも何だが、覚えは早かった方だと思う。それは、単に他にやるべきことも考えるべきことも無かったゆえの集中力のなせるわざだったのだろうが。カメルも、寝転がって景気の悪い視線を投げていた頃よりずっとましな表情になった、と笑っていた。

　確かに、経緯を棚上げにして、今の生活に集中したことで、精神はある程度の安定を得ていた。それが逃避による先延ばしに過ぎなかったことを自覚するのは、もう少し後のことになる。



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　戻るための最後の分岐点だったかもしれないな、とカメルは思う。王城前に集った時点ならば、援軍召集のための通路を辿って、分割世界を渡れたかもしれない。試験を受けただけの段階ならば、引き返して知らぬ存ぜぬを貫き通すこともできたかもしれない。

　王城の兵と事を構えた。これで、自分の後ろにちょこんと立っている景気の悪い顔の少女は、命の危険を得ずに済ます選択肢を、概ね失ったといっていい。

　とはいえ、今さら後悔の有無を訊く意味はない。もう彼女の立場は一揆の一員として確定し、どんな種類の悔恨を抱こうと許されることはないのだから。そして、それが頑なに本人の選び続けた道である以上、カメルも少女の行動に対し、後悔を投げる立場にない。ただ、如何に己の選んだ道を行く事を許されたとはいえ、一揆の戦いなどという血腥い場所で、こんな少女に少しでも活気をもたらすものが見つかるのだろうか、それだけは未だに、測りかねていた。

※聞こえるのはペンギンの鳴き声ですが、脳内には人間の言葉がとどきます。

龍はその言葉に男を睨め付けて返礼としようとした。



と———

傍らにいた女性が小声で笑い出した。

女性は、いかにも滑稽なことを言われた、という様子で腹部を抑え蹲っている。
龍は彼女のそんな様子の意味を理解しているわけではない。

ただ、その様子を脇目でみて、すっかり毒気を抜かれてしまった様子である。
肩を縮めて、小さくため息をついた。


その女性、花蓮の笑いが収まったころ龍は答えた。

そこで言葉を区切った後、龍は凄絶な笑みをその男に向けた。