3.慢心の罪と罰

枯れた大地を警戒もなく進む桜。
彼女にとってラルフ戦での快勝は慢心させるには十分なものであった。

枯れて人の住む気配もないようなこの土地は、桜の居た元の世界 ”堕落世界プッパラッパ” を彷彿とさせる。
プッパラッパは簡潔に言えば守護神すらも堕落し魔王達が支配域を競い合っている世界だと魔王様は言っていた。
人間は細々と支配域外に集落を作り隠れ住んだり、悪魔や魔王と契約を結びその支配域で暮らす。
人が人の理で生きられない世界。
だが、そんなものを彷彿とさせるこの世界は人が支配しているのにもかかわらずこんなにも荒れている。

あぁ、魔王様に会いたい。
どれだけ思い悩んでも結局これなのだが、一人思いにふけるのは昔からの癖のようだ。

しばらく歩くと岩陰から2体の影が飛び出す。
一体目は舌を出し荒く呼吸をする、砂色の体毛に黒い斑点模様の狼の魔物。
二体目は紫の毒々しい体で虫にしては二回りほど大きい蠍の魔物。

二体は獲物を取り合うかのように、競い合うかのように襲い掛かってくる。
狼は牙をむき、蠍は高く尾を上げる。油断も慢心もなくただ作業のように。

狼が喉元の狙う、桜は寸前のところで体を捻るも、回避虚しく右腕に牙が食い込む。
追い打ちを掛けるように狼の影から蠍が尾を突き立てる。
地面に叩きつけるように狼と蠍の喰らいついた右手を振るうも虚しく、二体は弾むように着地する。
ダメージはなく距離を取られてしまった。

桜はムーンレスナイトを使い黒く禍々しいオーラをまとい威嚇する。
だが野生で生きる彼らには効きはしない、それがそれほど有害でなく本体も恐れるに足らない存在なのだと分かるからだ。

・・・

どれ程 経っただろうか？
二体に襲い掛かられる度にダークネスを放ち攻撃するも、効果は浅く仕留めるにあたらない。
蠍の尾は毒を放ちジワジワと体力を削られる。
怯んだところに狼が牙をむく、一撃目と同じ右手だ。
右手にもう感覚はなく、だらりと垂れ下がるのみで なぜ千切れ落ちないのか不思議である。

左手に持つ杖に魔力を込め、最大威力の攻撃を仕掛ける。
狼に直撃するも 明らかに足りないその威力では仕留めることなどほど遠い。
狼の体が鳩尾に吸い込まれる、重い一撃が体の芯をとらえる。

足から力が抜ける、頭からうつ伏せに倒れる。まだ頑張れると体を動かそうにもうまく動かせない。
耳元に足音が聞こえ、音のするほうに顔を向ける。
狼が鼻を鳴らしている、こちらに起き上がる力がないのを確認すると、大きく口を開けた。
肉を裂く音、牙が深く喰い込んでいく。痛みはない、とっくに脳の許容範囲を過ぎ麻痺している。
永遠とも思える時を過ぎ、骨の砕ける音を聞きながら 私は気を失った。




慢心は罪だ、使命を全うするものに許される行為ではない。
死は罰ではない、それは救いであり罰ではないのだ。



桜の亡骸は蠢いている。

突然、軽快な足音とともに目の前に人形が飛び出してきた
それは土で出来ているようで足音のわりに重そうで
穴の空いただけの目は恐怖を感じる

軽快に喋る土塊に嫌悪し、桜は構える
颯爽と潰してしまわないと精神上よくないことになる

桜は周囲を見渡し敵がいないことを確認し
この場を去ることにした