この世界にも結構な質の女はいるようだな。
獣人や異種族で微妙な歳の微妙な一部の趣向の奴にしか売れないような不出来ではない。
確かに、そう言う趣味を持つ者には高く売れるが……俺が唆られん。
金稼ぎは商人の基本だが、俺は快楽主義だ。
自分の趣味趣向に沿わないならそれは価値ある要素があろうと無価値だ。

それはそうと、与えられた知識は割りと便利だ。
はじめて聞く単語でもその意味と用途、別の意味合いなども手に取るようにわかる。

けれど、
この世界でも以前の世界と同様の事をしても飽いてくるだろう。
かと言って、善行というのも俺は好かん。
ならば、やることは以前とさして変わないのではないだろうか？
何か楽しみ方を模索していくしかないか…

『仲間』となった彼女らが先ほどまで姦しく喚いていたが、
特に何を語らっていたかは把握していない。
他愛もないじゃれ合い、心底どうでも良い。
手駒として適度に行動し、生涯の撃退または排除を行なっていれば文句もない。
素人丸出しだったり、野性的な連中だったり、総じて幼稚であるからして下手に関わることもない。
俺が彼女らに何かを与えることがないように、俺も彼女らから利益を得られるとは思っていない。
徒党を組むのが利益？
いや、これは大きく組織的な利益であって個人の利ではない。
集団としては良くとも、俺個人としては当然の用意でありそれ以上ではない。
コレほどに騒がしいのならば殺伐とした野郎共と組んだ方がマシだったかも知れんな。

誰もいない宿屋の一室で【相棒】の名を呼び、問いかける。
そこに他に人影はない。
ないが、確かに問いかけに対する返答はされる。

手を振られたり、親指を立てたり。
そんな仕草より何より相手の笑顔に、ほっとしたように胸をなでおろす。
この世界の言葉を知らぬ立場だとわかった上で、それでも会話を試みようとしてくれるならば、こちらも真剣に相手の仕草を一挙一動逃さぬように真っ直ぐに見上げ。

相手を指させば、彼の名を呼んで、笑う。
あっているかどうか、一応は確認をするために、少しだけ首を傾げて反応を待つ。
そして、今度は先ほどまで相手に向けていた指を自分へと向けて。

そして反対の手を相手に向けて伸ばした。相手と自分、ちょうど中間の位置でその手を止める。何かを、待つように。

　　　　　　　　 ポトリッ

ジャナのポケットからリップスティックが、男の前に一本落ちたが、ジャナは気付かず歩き始める…。

少女が歩いていると人の言い合う声が聞こえた。

それ自体に何も不思議な事は無い。少女が違和感を感じた理由は別にあった。

“言い合い”をしているのなら、人は２人以上居るべきだ。
それは当たり前の事で、でも———

ちょっと“変わった人”なのだろうか。自分と話す様な、そんな？
などと少し失礼な事を思いながら改めてその声が聞こえる方を見つめる。

そうすると一つの事に気付いた。
そこにうっすらと見えるのは

気付けば思わず声を出してしまっていた。

良く見れば男の方はちょっと怖い雰囲気だった。

意味も無くピンチである。

白を基調とした小柄の少年が、1人の青年を。
いや、正確には青年の『周囲』を食い入るように見つめている。

恐らくは少年の付人と思われる、黒の礼服を纏った青年が少年のことを小突く。
何をしているのか、と問わんばかりに。

少年は少し迷った様子を示しながらも…その青年相手に一歩、また一歩と踏み出していった。

少年はそう言いながら、青年の周囲の空間を指差してみせる。

言い分からして確証はなく、あくまで直感的なもののようだ。
どことなく興味がありそうな少年に比して、礼服の青年は微笑を浮かべながらただ傍観している。