ざり、ざりと、枝を削る。現地の人から依頼された、簡単な道具の補強作業。
それを行いながら、私はまたも考え事に耽っていた。


——マーメイドと交戦する、直前。
ヘイアンが何やら投げかけていた（センスのない）言葉の通りになったなと、少し笑って。

「良かったじゃん、人魚出たよ」

そう声を掛けたが、彼にはその姿が見えていないらしかった。笑顔は一転して、困惑に変わった。
原理は分からないが、彼には水の塊に見えるらしい。そうなると、非常に面倒くさい。今のところは何とかなっているからいいものの、後々困った事になった時、どうするべきだろうか。
例えばの話だが、アレが水中に潜っただけで途端に判別が難しくなる。……ミモザがセンサー代わりだとは言うが、本当にそれでこの先大丈夫なのか。そういう不安は抱いてもおかしくないと思うのだが。
いかに私が天才美少女とはいっても限界があるのだ。……ごめん、ちょっと盛った。いやだいぶ盛ったごめんなさい。モブらしく隅っこで大人しくしてます。
悩み事ばかりが山積する、この道のり。多分今後もどんどん積み重なるだろうとは予想が出来る。私は耐えられるかどうか、今から不安になってきた。

「やれやれ……っと、これでいい？」

ため息をつきながら、最後の仕上げを済ませる。出来に問題がないことを確認すると、お礼にと食料を少し譲ってくれた。……聞いては見たが、この辺りの村では、PSによる取引はされていないらしい。まあ、嘘か本当かはともかく、仕方ないか。


のんびり川沿いを歩き、集合場所へと戻る。そしてバイクに跨り、全員の準備が済んだことを確認。ヘイアンを先頭に、再び進み始めた。
考えるネタには尽きないが、何を考えても落ち込むか、満足するだけで終わる。そんな現状なので、取りとめもない思考をただ行う。
手持ちのお金、それから平行世界についてとか。一揆についてとか。ヘイアンの世界についてとか。ミモザとヘイアンの関係についてとか。このバイクの整備方法についてとか。——今の王政は、どうなっているのかとか。
何の役にも立たない、材料も無い、暇潰しだけ。その筈だったのだけれど。


水の音。川の中に、水着を着た誰かさん。水浴びをしながら、気持ちよさげに息をついた後。
此方に気付き、誰何の声を上げた。

「……誰だろ？」
「……おい、そこの貴様。所属と名前を言え。——返答次第によっては……」

私が、疑問を呟く。ナビが、言葉を投げかける。
水着の男は——

「き・・・、貴様あぁぁ！！兵士の休息を狙うとは卑怯なッ！！」
「防具が無くともそのような輩に負けはしないッ！！
うおおおぉぉぉぉぉぉッ！！」

——武器を取り躊躇無く襲い掛かってくる程度には、一揆の側と兵士の側の対立は激しいらしい。
本当に物騒な場所で、面倒な場所だ。ため息をついて、私も武器を構える事にした。

手を取る。普通の女の子とそう変わりのない手。
あるいは長い間工具を握っていたフィアの方が、使い込まれた手をしているかもしれない。

そして、笑顔を浮かべる。ヘイアンに『やれ』と命じられた笑顔を。

フィアの事を気に掛けているような言葉。
それも、『命令』によるものなのだろうか。

万已楽の尻尾が外れ、接続口であった尻尾の機械的な断面が露出する
直後、尾だったものが開き広がった表面積を内部の機械が補填しつつ万已楽の足全体を覆う
その見た目は黒い機械のヒレが少し目立つものの、人魚そのものであった

変型自体が見られてる可能性は微塵も考えてないらしい

たまたま自身に向かって石を構えられているのを見つけたナナシは
慌ててフィアの元へと降りていった。

一呼吸。

旅行鞄を運びながら宙をゆるりと移動する、

人の形をしてはいるが人よりもだいぶ小さな西洋人形。

人形は女性を見つけ、近づいてくる。

そう言って、提示するスマホ。
女性の端末と見比べれば、やはり互いに異質であるということが見てとれた。

それは違う気がする。

冗談めかした様子もなく、そう告げる。
ただ単純に事実を述べているようだ。