「むーしゃむーしゃ　あー、シアワセー。
　おにぎりうめー。やっぱ素飯に塩ですよ、おにぎりは。
　一日の稼ぎがおにぎりで吹っ飛んでも泣きませんよ。私は」

「まぁ良かったじゃないか。今は食えるだけでも有り難いと思わねば」

「なーにが良いもんですか。コレを見てどうぞッ！」


　　つちのこ「作成Ｌｖ１…」
　　みとせ「付加Ｌｖ1…」
　　詩織「合成Ｌｖ１…　たくあん…」


「これは…　全滅ではないか…」

「えぇ、私も料理Ｌｖ１ですよ。みんなで、訓練しようって約束したのに」

「いや…、すれば良いんじゃ、ないの、か？

やや事情を把握しきれず、的外れなことを言ってしまった気がする。
イサナは分かってないな、とヤレヤレといった様子だ。

「人間ってのはスキル磨くのにも金のかかる生き物なんですよ。
　まぁ、つちのこは知らんですけどね。
　みんなで昨日の稼ぎで鍛えるって約束したのに、ついお腹が減って
　飯買ったらこのザマァってことですよ」

そういう事か。だから落胆しながら食事とっていたのか。だが…

「それは意志が弱いだけだろう…」

「断じて違います。当てが外れただけです。お魚の懐事情を予見できなかった
　我々の完全なる敗北なんです。チクショーメ！」

昨日のマーメイドたちの事か。

この世界に生きるものとして、そして同じエンブリオとして心苦しいが
王を打倒しネクターの独占を打ち砕く為には、力が要るし金も居る。
同胞からもなけなしのＰＳを搾取してまで…

いや。それでも私は立ち止まるわけにはいかない。いかないんだ。



「なーに辛気臭せー顔してんですか。ほら面貸しなさいよ」

契約の対価の生命力をイサナは口付けでいつも私に与えてくれる。

だが首に手を回してくるイサナを。　私は反射的に突き放してしまう。



しまった。やってしまった。

「あ、いや…違うんだ」


「……んー。やっぱ。こーいうのはイヤです？」


いや、違う…、まぁ、確かに色々と間違ってるとは思っているが。
今私が考えてるのは別の事で…。イサナとはそういう契約で。
互いに…　始めは強引に、だったが、同意の上での話で…
いや、同意なてあったっけ？　…今はそういう話ではなく！



「イサナは。だって。結婚しているんだろ？そんな人間と私は」

先日。イサナが言っていた「生涯を約束した人」というのが。
ずっと気になっていた。……タイミング的に口から出任せだったとも
考えられるが。

もしそんな人が居るのに。この人とこんな行為を続けると思うと。


やはり。罪悪感を感じる。


「じゃあ。解消します？　契約」

「……………」


それは。できない。かなり力を取り戻してきたのに。
この力を手放すわけにはいかない。契約は続けたい。続けたいが…

言葉に詰まっていると、イサナは女のものとは思えない力で私の胸元を掴み上げた。
性格は酷いし、言葉には品が無いが、暴力で私を従わせるようなことはしなかったイサナが、
呻く私を冷たく見下ろしている。

「綺麗事はキライじゃないですよ。
　そうやって言い訳してまで手を汚すのが
　いかにも人間らしいじゃないですか。
　お前もつまんねー事で迷うなよ。
　
　力が欲しいんだろ。
　私と契約切る意思が無いなら、やる事だけはキッチリやれよ」


何も言い返せす、そのまま強引に唇を奪われた。

これが私とイサナの契約。行為そのものに意味は無い。
生命力を貰う代わりにエンブリオの力を貸し出す為の
二人の間の儀式のようなもの。

私は力を手に入れる。手段は選ばないと、決めた。はずなのに。




気のせいだろうか。

今日のキスは。いつもより少し優しかった。気がする……






「なんですか？やっぱり言いたいこと有ります？」

つい頭に血が上って。

「イサナ…その」

仲間達の前だということを忘れていた。

「皆の視線が痛い」



「あァん？」


　つちのこ「（ニヤニヤ）」
　みとせ「お構いなくー」
　詩織「………」


「おいィ！てめえら見世物じゃねーんですよ！金取るぞクソがッ！」


　『えー』『ぶーぶー！』『痴女ー！』『給料出せー！』



………視線が。痛い。

つちのこは何かを隠した！