言った傍から襲撃に遭った。
美しい風景を観光客として正しく楽しんでいたところに、文字通り水を差されてしまった。
ヨドの言葉に耳を傾けておいたのは正解だった、と安堵する。
「自衛のための手段」としてマーメイドと契約した。
ティムラハは、人ではないが、
人の価値観に理解を示す相手を無碍にするのは、経験上好ましくないことだと考えている。
いたずら好きの山の怪に総出でからかわれたことから(幼少のトラウマの一つだ)、それは身に染みている。
エンブリオ同士忌み嫌い合われても困るので、マーメイドには契約の際、二つ条件をつけておいた。
『解約を拒否しないこと』
『こちらの都合に口出ししないこと』
マーメイドは怪訝な顔をしたものの察しはよかったようで、了解し契約した後、進んで干渉してくることはなかった。
それからヨドの様子が明らかにおかしくなった。
落ち着きが無い。
フードの中で大人しく丸くなっていたかと思うと突然首を垂直に伸ばし、
右か左かと頭を振ったかと思うとフードの中でぐるぐると回りだし、
ぴたりと止まったかと思えばうなじを突いてくる。
なんだと振りむけば、慌ただしく首の裾からローブの中に入り込み、そのまま下に、地面に落ちた。
かと思えば足に絡みついて素早くよじ登って行き、胸元から顔を勢いよく出す。
そして視線があった途端、だばだばと顔を這い跨いでフードに飛び込んだ。
これを奇行と言わずして何を奇行と言うべきか。

そそくさと逃げるように去って行った。