『行き当たりばったりな冒険　〜ツルギの場合〜』



　とある世界、GC2075.07.11.19:00、とある研究所にて——


　身体の異常はないが、記憶の構築に手間取っている。
　何故か？　記憶がバラバラで滅茶苦茶だからさ。

　どうやら記憶を閉ざす直前……と思われる記憶によると戦闘していたようだ。
　大破……とまではいかないが、深手を負ったのは間違いない。
　記憶を司る回路にまで影響が及び、記憶がバラバラになったと思われる。

　『核(コア)』に焼き付いた記憶は断片的で、どの時系列なのかわからない。
　特定の時系列には違いない。
　詳細はマスターであるショウ＝ツルギノに聞けば判るだろうか。



　目を開けると、やや青の強い光が見えた。寝台を照らす照明だ。
「……お早う御座います」
　確認のためとそこに居るであろう博士に向けて声を出す。声帯に異常はない。
「おぉ。ミライ君、目が覚めたのか。お早う……と言うか、もう『今晩は』の
時間じゃな。具合はどうかね？　何か異常はないかね？」
　上体を起こし、両腕を動かす。特に異常はない。寝台から降りて、
歩行も確認したが、異常は見られない。
「システム、ボディ、『核(コア)』、全て良好です。ただ、記憶に欠損と
『核(コア)』に断片的な記憶の焼き付きがあるようです」
「ふむ、矢張り記憶が飛んでしまったか。君は自分のマスターについて
認識しているかね？」
　マスターの容姿と情報ははっきりと記憶している。ただ、記憶の障害故か
声帯の記憶に自信がなかった。
「俺のマスターはショウ＝ツルギノ。人間の男性。少尉。射撃に優れており、
人型戦闘兵器『刻(コク)』のパイロット。現実主義者でありながら、未知の……」
　マスターについての情報を述べようとして、博士が手で制した。
「もういいよ。有り難う。そこまで記憶しているなら問題はないようじゃ」
　博士はスクリーンを目で追いながら、小さく唸った。
「記憶の障害はどうにもなるまい。過去を忘れろとは言わんが、
ロボットであるお前さんの記憶は戻せんよ。バックアップ自体が壊れたからの」
「え！？　そうなんですか。それが頼りだったのに……」
「そう気を落とすんじゃない。これからの記憶を作っていけばいいさ」
　少しショックだったが、それよりも俺はマスターが気にかかっていた。
「ところで、俺のマスターは大丈夫ですか？」
「ショウ君なら大丈夫じゃ。今は身体検査中じゃよ。会いに行ってみるかね？」