ここまでのあらすじ

ちょっとしたお茶目で食材を買ってみたら付加の鍛錬ができなかった！

「いやあの、本当にごめんなさいと思ってるんですのよ痛い痛いやめてホーリーライトやめて」

「まさかホーリーライトが味方全体にダメージを与えるとはこのレーネフィア見抜けなかっやめて痛い痛いうぃすぷさんも皆も石投げないで痛い痛い！？」

……いや、本当にまさかでしたわ。
おかげで四人中三人が加護を受けているパーティーに聖なる光が降り注いだじゃないの。
……まさかこの子、私の足を引っ張ろうとしているのでは……いや、聞いた話では他の人のウィスプの技もこうらしいし、そんな事はないのかしら。
ええ、従者をいきなり疑っては貴族の恥ですわね。

……無言で漂っている（そもそも喋れなさそうですが）のがなんだか不安を煽りますが。



川辺を行く。
——空から差し込む光は水辺に反射し、蛍のような煌きを周囲に散らばらせる。
その煌きが乱反射し、地上に満点の星空を現出させた。
この風景を見れば、成る程、「星屑の小川」というのも嘘では無いな、と実感する。

「……このような時でなければ、ゆっくりと楽しむところなのですが」

事が終わったら、またここに来て情景を楽しみたいところだ、と思考する。

「それにしても……このような景色が広がっているとは」

自然には生まれぬ光景である事は間違いない。それをこうして現実の物としているのは——。

（エンブリオ……ですか）

この世界における、超自然の最小であり最大単位。
元素世界の力の源。

（単純な精霊の互換と思っていましたが……これは中々）

世界に偏在する、文字通りの“自然そのもの”。
象徴である精霊とは違う、『世界を巡るエネルギー』。

（……これが一つのところに独占されれば……事態は単なる暴政ではすまされないかもしれない）

最悪、世界そのものが枯れ果ててしまう可能性だってある。

（果たして王は、それを理解しているのか……）

理解していないなら愚王だ。
理解しているなら狂王だ。
どちらにしろ——王の器ではない。

（しかし、それにしても……）

先ほど襲って来たエンブリオ……マーメイドの事を思い出す。

（エンブリオがいきなり襲い掛かって来るなんて……この世界にやって来た時のウィスプとは違う？）

単なる気性の違いではなく、もっと別の違いがあるとすれば、何が違うのか。
王の側に契約されたエンブリオ、というのも考えたが、倒した後にこちらから契約できた以上おそらく違う、だろう。

「……つまり……何らかの要因で、エンブリオが凶暴化している……？」

その場合の、何らかの原因とは何か。
……この世界に最近あった大きな異変と言えば、王のネクターの独占に他ならない。

（ネクターとエンブリオによる力を奪われる事で世界のバランスが崩れ、それによりまだ契約していないエンブリオ達が不安定になっている……）

推測に推測を重ねた、トンデモと言われてもおかしくない理論だが……これが今のところの結論だろうか。

（……思ったよりも大事になりそうですわねぇ）

と、前を歩いていた三人が立ち止まる。
考えながら歩いていたせいで、前方の確認を怠っていたが何かあったらしい。

「……何者だッ」

（人の声と鉄の匂い？　こんなところに居るという事は、王の兵士……！）

油断した、という思いを胸に向き直ると、

「き・・・、貴様あぁぁ！！兵士の休息を狙うとは卑怯なッ！！」

水着姿の男がいた。
海パンだった。どう見ても寛いでいた。

「………………」

思わず眉根が下がりかけるが、

「防具が無くともそのような輩に負けはしないッ！！
うおおおぉぉぉぉぉぉッ！！」

（曲りなりにも兵士、舐めてはかかれない——か）

「いいでしょう。　私の名はレーネフィア・ディ・ステラ。いざ尋常に勝負です！」

何やら煌びやかな衣装を纏った女性が目の前に。
……こういう人は、周囲に人がいる事が多い。
という事は、えてして情報を持っているものだと言えるだろう。

そう言って話しかけるのは、彼女と対照的にラフな格好をした少女。
お茶くらいならおごるけれど、と、軽い口調で微笑みながら付け加えた。