躍動の世界セルフォリーフで出会った炎の精霊、リムロッソ＝ウィン・ケーナズは、人懐こい笑顔が印象的な壮年の男であった。

卯の花腐しは水に連なる民であったので、最初こそ警戒したが、穏やかで紳士然とした彼とすぐ打ち解けた。

彼と言葉を交わしたのは、ごくごく短い間であったが、
その炎の民の象徴、燃えるような焔色の髪、
それは他世界を渡っても、どんな人ごみの中でも見紛う筈がなかった。


呼びかけると、自分でも驚くほど掠れて弱々しい声が出た。
しかも振り返った相手は、当たり前だが別人で、
期待した自分が益々弱く思えて、思わず眉根が寄った。
（でもこんな姿では相手に表情もわかるまい）

別人だったが、同じケーナズという名だというその人物は、
こちらの体調を気遣って、暫く付き添ってくれるという。

少し先を行く別人のケーナズが時々振り返る。
ぴりぴりと警戒しているところは、まるで昔、彼に会ったときの自分のようだ。

卯の花腐しは、水琴窟に響く水音のような、人ならざる声で、少し笑った。