にゃーぁ…

とさり、と、軽い音を立てて、子猫の姿をした敵は倒れた。
その側には、ゆらゆらと揺れている人形ーーークライゼルがいる。

その様子を、ラディは険しい顔で見つめていた。

キリキリ、と、人形は子猫の前へ歩み寄る。
僅かに屈み、その頭部を子猫の方へ向けたかと思うとーーー
その窪みの奥、赤い光が瞬いた。

すると、ふわり、と子猫の身体から薄緑の、淡い光が浮き出る。
すう…と、その光はクライゼルの頭部に吸い込まれ、それと同時に、


に…ぁ…


子猫はぴくりとも動かなくなった。

目の前で起こった、初めての光景に驚きを隠せない。
クライゼルはというと、カタ、カタカタと、微細な痙攣を繰り返している。

整備を繰り返し、かなりクライゼルの構造を熟知しているラディであっても、その頭部の中の構造は未だに把握できていない。
継ぎ目も何もなく、分解して内部を確認することが不可能であり——いわばブラックボックスなのだった。

今の現象に、何とか説明をつけようと推測を試みる。

と、思案に耽るラディをよそに、クライゼルが突如、

怪音を発しながら、頭部の光を点滅させる。その輝きは瞬くにつれ、赤から、先程見た薄緑へと変化していった。

と、明滅が終わったと同時、案山子はへにゃり、とバランスを崩し、がしゃんと耳障りな音をたてて倒れこんでしまった。

ジジッ、ガガガ、と明らかに異常音を立てるクライゼル。
すると、その腕に当たる金属の棒が動き——ラディのズボンのポケットを指し示した。

何かに思い当たり、請われるままにポケットの中身を探る。
出てきたのは、油紙に包まれた一輪の赤い花——ネクターだった。

ラディの言葉に、かくん、と頭部を振って答えるクライゼル。
どうやら当たりらしい。

理不尽さに激怒し、一方的に捲し立てる。
しかし、それに対しクライゼルの動きは弱々しく、このままの状態では使い物にならなそうだ。
——それを解決する唯一の方法は、やはり———

取り出したネクターの花弁を一枚むしり、それをクライゼルの頭部の孔に放り込む。すると、

むくり、と緩慢な動きで起き上がり、一呼吸置いた後、またいつものようにくるくると、軽快に動作し始めた。

はぁ、とまたも深い溜め息をつき、一服しないとやってられんとばかりに胸ポケットから煙草を取り出そうとして——…

丁度切らしていたのをやっと思い出す。
暫くは、鬱憤を紫煙に乗せて吐き出すことは出来なさそうだった。