——探しものをしていました。


そこは、雲の海と空の海の間。
水色から菫色を経て群青へとグラデーションしていく空には、雲ひとつありません。なぜなら、雲の上を飛んでいるから。

「ちゅん！ちゅん！」

巨大なすずめの爪にがっしりと掴まれて、ふわふわと上下に揺れながら、どこへともなく飛んでいく私。
吹く風は春風のように心地よく、眠気を誘うほどに柔らかです。
横を見ると、まな板が2枚、すずめと私を追うようにヒュルヒュルと舞っています。
それ以外には、目ぼしいオブジェクトはありません。鳥も飛行機も飛んでいませんし、風船が舞ったりしてもいません。
眼下で雲の海は波打ち、時にはネコの形、時にはお魚さんの形…と絶えずその輪郭を変えてはいますが、所詮雲は雲。形があるように見えても、手にすることは叶いません。そんなものに価値はありません。

高いところに来れば、探しものはすぐ見つかると思っていました。でも、雲の海が邪魔です。

「………ちゅん！？」

気がつくと私は、すずめの脚から自分の身を剥がし、自由落下を始めていました。
雲の海に潜り、つやめく水面のその下に顔を突っ込めば、水底の沈殿物に手が届くかもしれません。当然の、しかし我ながらバカな考えです。
すずめとまな板たちの姿はみるみる遠ざかり、雲の波はみるみる近づいて行きます。


ざぱぁ………ん


…すさまじい音が響きました。
雲の海の水面は、気体とは思えない粘度で私の全身を包み、風を切って落下していたスピードを一瞬のうちに殺してしまいました。
視界は真っ白。そして、衝突音が去ったあとはほとんど無音。こうなると見当識障害に陥るのは時間の問題で、すでに上下感覚さえおぼつかない状況。

ですが、マシュマロのように柔らかく、人肌のように暖かな雲の抱擁は、これまで利用してきたどんな高級寝具よりも優雅な寝心地を提供してくれます。
目を開ければ白一色、目を閉じれば黒一色。どちらもかわりません。であれば、このまま眠りについてしまうのも時間の問だ

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……いつの間にか、雲の上に出ていました。

「……………」

どうやら、すずめが私を雲の粘体から引きずり出してくれたようです。しかし見るからに呆れ顔。
あのまま雲の中で眠りについたら、きっと私は流れる雲に永遠にとらわれ、何も見つける事なく漂い続ける運命だったのでしょう。
まだ三半規管に狂いが残っているようで、吐き気がします。でも、雲の上を吹く春風に頬をなでられると、不快感は急速に洗い流されていきます。

私は、探しものの最中なのです。よくわからないけど、それが最優先なのです。
誘惑に負けてはいけません。今は頼もしい仲間もいます。でも頼り切りではいけない。気を引き締めないと…。

おそるおそる、嫌がられないかなって気にしながら、パジャマの前のボタンをちゃんと留めようとします。
少しでも嫌がるそぶりをしたら、手を引っ込めようとビクビクしながら。

何も反応を見せなかったらどうしようかと不安になっていたのもあってか、ビクッと彼は驚いた。

ええっと確か・・・と、彼は自分の荷物袋から、大きな毛布を取り出した。

彼は彼女の後ろに回りこんで広げた毛布をぶわっと、かぶせるように投げた。
背が低い彼なりに彼女をくるもうとしたのだろう。

そう言って彼は限界まで背伸びと腕を伸ばして彼女の鼻辺りをティッシュで拭こうと試みる。
ただ何分それなりに身長差があるので、相手が立ったままだと鼻を拭いてあげるのが難しいのであった。

コレはちょっといただいちゃおうとそっと唇めがけて顔を近づいていって・・・

いきなり目を見開かれて驚く狐の図
九本ある尻尾が一斉にぶわっと逆立ってたり。

ぐいっと一本顔に近づけてみるが、目を閉じてて見えてるのかどうかが分からなくてもやもや