■A new contract...

クレシュミエントことレシュに突っ込まれるまでもなく、自身は魔術の扱いは不得手なのは重々承知だった。
実の所、それは自身の故郷ではレアケースだったりする。
所謂物理攻撃……剣術や武術よりは、魔術の扱いに優れた者が多いのだ。

が、その不足分を補うようにして、高い物理攻撃力と体力に恵まれた分、片っ端から武器の扱いや体術を習得し、ひたすらに腕を磨いてきた。
結果現状では故郷では随一の物理攻撃力と防御力を誇る……はずだったのだが、この世界へ来た折の経緯で本来の能力には程遠い。

初戦の腕試しで久しぶりに愛剣に宿る神聖霊・アークの助力を得ても、思うように力を発揮出来ていないのを痛感した。
このままでは先行きに不安がある……そう判断し、アークと相談の上、この世界でも属性精霊の類との契約を結ぶ事にする。


——ここメルンテーゼでは“エンブリオ”と呼ばれているそれら。
その力を認めた者に対して "契約" を受け入れるそれらは、少しの生命力を提供することで力を借りることができるという。
幸い契約に必要な“ネクター”は入手済み。
生命力の方は、何とかなるだろう。


自身が魔術の不得手を補う為に、異界へと旅立つ折に正式に授けられたのが【精霊剣アルク・アン・エルシフ】だった。
鋭い翼を思わせるシルエットを持ち、柄の中央に埋め込まれた楕円の宝玉は神聖石と呼ばれる。

この宝玉に宿る神聖霊・アークを介して、異界で必要に応じて所謂精霊等と契約を結べば、アークの能力……所謂“管理”の及ぶ限りは複数属性を制御する事が可能になり、剣の攻撃に属性を乗せたり、防御・補助といった魔術に似た類のものを剣を媒体に展開する事も可能になるのだ。

文字通り命綱に等しい愛剣。
幾多の戦を共に潜り抜けてきた。


異世界で結んだ契約は、そこを離れれば解約される。
よってこの世界では、もう１度最初から契約を結ぶ必要があるのだった。

アークは、神聖石から一定距離は離れられない。
現状では自身と同様に、アークも絶対口にはしないものの能力が回復しきっていないのは明白という状態ではなおのこと。

よって新規契約を結べそうな“エンブリオ”……シェリィと相性の合うもの、“力を認める”という条件を満たせるものを探す事となった。


戦闘で力を示したエンブリオとも契約を結べるというが、まずは一番アークの負担にならずに契約できるものを探して貰う事にする。
時間の合間に、色々な場所へと足を運び、アークに探索を任せる。

そんな事を繰り返す事幾度目か。
背に硬質な結晶の中に遊色の滲む浮遊する四枚翅を持つ少年精霊は、淡い光を放ちながらふよふよと飛行しつつ、何か赤い宝珠のようなものを抱えて戻ってきた。

幾らか先日の腕試しで受取っていた赤い花の花びらをアークへと渡せば、それはふぅ、と淡い光を放ってアークの抱えていたものに吸い込まれ。
赤い宝珠のようなものも同時に霧散して、シェリィの持つ精霊剣の神聖石へと吸い込まれるようにして消えた。

相棒等と軽く呼ぶのではない、そこは御願いしますアーク様であろう、とぶつぶつ小言を続いているが、それらは適当に聞き流す。
いい加減付き合いも長いので、イチイチ全部聞いてられないというのが正直な所。
それをアークが知れば余計に小言が増えるのは言うまでもないだろう。

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……と、それらの契約を一通り終えた後。
ふと少年姿の妖精は、アイスブルーの瞳を細めるようにして、視線を中空へと送り、暫く何かを考えるようにして。

——こうして、とにもかくにもまずは１つ。
新しい力を愛用の剣に宿し、旅は続く——。

（一礼。）

（足元への視線に気づき、足が見えないようにしゃがみこむ）

（手遅れである）

（表情はかわらないが、がたがた震えている）

話しかけられるとは思ってもいなかったのか、びくりと肩を震わせ、声の方向に向き直る。
少し上の位置から降る色違いの瞳に気圧されたように目を逸らした

馬を褒められたのはうれしそうで相棒の首筋を一撫でしつつ

と、己よりも先に馬の紹介を始めた。

お互いがんばりましょう。ありがとうございましたっ