メルンテーゼに来て最初の依頼は、行商人セリーナの護衛。
僕もセリーナもメルンテーゼに来たのは初めてだという事もあり、まずはこの世界の様子を少しでも知るために、軽く辺りを歩いてみようという事になった。

行商人であるセリーナは、当然の事だが、商品や商売道具を持ち歩いている。
背中には大きなリュック。
その他にも、小物がたくさん入っていると思われるベルトポーチもいくつか身に着けている。

背中のリュックを見ながら尋ねてみる。

セリーナ『はい、そうですよ。中身、見てみますか？』

セリーナは背負っていたリュックを降ろし、かぶせ部分を持ち上げてリュックの入り口を固く閉ざしていた紐を解き、中身を見せてくれる。

中には、木材や石材や金属などの素材、保存食、日用品などがぎっしりと詰められていた。

騎士の命ともいうべき剣の他には、小型の盾や、携帯性重視で味は微妙な保存食くらいしか持って来ていなかったので、様々な物資があるのはすごくありがたい。

セリーナ『すみませんが、これは私たちの旅に使うものではありませんよ。』

セリーナは俯いて小さく首を横に振る。

セリーナ『これは、私がセレスタイト商会から責任持って預かってきた商品ですから、タダでお渡しする事はできません。
使いたいものがある場合は、代金を払って買ってもらいます。護衛の依頼料から代金を支払ってもらう形でも構いませんが。』

毅然とした口調でセリーナがこたえる。

セリーナ『行商の仕事に影響が出ない範囲で、反乱の手伝いをするつもりで来ました。
攻撃魔法や治癒魔法、私の持てる限りの力で反乱の手伝いはしますが、反乱の手伝いの為に商品に手を付けるつもりはありません。』

真っ直ぐな目で僕を見ながら言い放つセリーナ。
僕は黙って、彼女の言葉を受け止める。

セリーナ『あの、ウィスタリアさんは、どうして此処に……？』

僕が何も言い返してこない事に戸惑ったのか、先程までとはうって変わって、少し困ったような表情で尋ねてきた。

聖騎士として困っている人を助けるのは当然の事で、そこに理由も対価も必要はない。
君の護衛もその一環だから、報酬などは不要だ。」

僕は、聖騎士団の一員として当然の事をやりに来ただけだ。
そこに、迷いも何もない。

セリーナ『そうですか。聖騎士さんっていうのは立派なんですね……。
どんな相手からでもきっちり代金を請求する自分がすごく小さく思えてしまいます……。』

心苦しそうな顔でセリーナが呟く。

無償で人を助ける事が聖騎士の生き方で、僕は聖騎士としての生き方を貫いているにすぎない。
セリーナは商人で、対価をもらって物を売る事こそが商人の生き方なのだから、彼女もまた生き方を貫いている事には変わりないのだ。

セリーナ『ウィスタリアさん……ありがとうございます。』

穏やかな笑顔でセリーナは言った。