オルヴァの指す方向を見ると、確かに、何か、光のような影のようなものがふわふわとついてきていた。

………


「お待たせいたしましたぁ。どんぐりオークのグリルで〜す！」
一揆に出発する前、酒場で手伝いをしていた頃の事。
一度だけ、わたしのペンダントを目に留めたお客さんから、声をかけられたことがあった。

「ほう…めずらしい。それはこの世界の文字ではないな？」

神経質そうな細身の男が、目を細めて興味深げに文字を凝視していた。
はじめての事に驚きつつも、「記憶が無い」事、「このペンダントが自分についての唯一の手がかりである」事を手短に話すと、
彼はおもむろに肉にソースを絡ませ、皿の縁に「ある文字列」を描き、すぐに塗り消した。
「この世界ではこう読む。が、声には出さない方がいい。」

…あまりに急展開だった。あっけにとられていると、彼は薄く笑みを浮かべ、言葉を続ける。

「お前さんがどういういきさつでここにたどり着いたのかわからない以上、少し慎重になれ。
　仮に、もし何か理由があってこの世界へ逃れてきたのだとすれば、
　害意のある人間が、お前さんを探していないとも限らない。
　これがお前さんの名前であったり、存在を示す単語であった場合、
　声に出すことで探知の術にかかる可能性だって考えられる。

戸惑う私のの反応を楽しむように、彼は目を細めてにやりと笑った。

「……まったくの杞憂であればいいがね。
　お前さんが必要だと思う時まで、こいつは伏せておいたほうがいいだろう。」


………

「危険」の可能性について、うっすらと認識はしていたものの、正面から突きつけられるとどうしても気持ちが怯んだ。
ペンダントを捨てようかとも思った。でも、私は私を知りたい。
思い直して、今ここにいる。

…シェイドを見遣る。
害意は感じられないし、味方をしてくれるようだけど、
用心するに越したことはないんだろうな…