（前日は日記を仕上げ切れなかったので、前日の分の残りだよ！）

咄嗟に携帯していた針で指先を刺すと、滲んだ血から一振りの剣を召喚して突き付ける。
流れる様に……いや、息をするのと同じ位自然に体が動く。
それもそのはずだ。視線は書類に向けつつも警戒を怠っている訳ではない。

だが——ソレは何の気配も感じさせずに突然姿を現したのだ、警戒しないはずが無い。
たとえ、ソレが美しい少女を模した西洋人形の姿をしていようとも。

頭の隅で警鐘が鳴る。目を逸らせ。声を聞いてはいけない。
目の前の『えんぶりお』は食虫花だ。一度捕らわれれば逃げられない。

細い腕が近づいてくる。
小さな手が、指が、頬に触れ、顎を捕らえ——離さない。

意識が遠のき、視界が暗く……ぼやけていく。
そして——

人形に魂を宿した女が哂う。
己も母も……疾うに過去へと埋もれた存在だと言うのに、その事も知らず。

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そして、力試しは終わり草原へと進む——

小さな黒猫が倒れ伏すが、気にも留めずに剣に付いた脂を拭き取りそのまま軽く振るう。
と、ガサッ……と少し先から物音がする。
音がした場所に居たのは、綿のワンピースとリボンを身に付けた女……いや、少女か？

別の人形を連れた相手は、糸を巧みに操り、時には体の自由さえ奪い、追い詰めてくる。

結果は……惜敗。
お互いに限界に近くなった所で、止めを刺そうと動いた所をかわされ、そのまま一撃。


礼を言って立ち去る相手の姿が見えなくなったのを確認し、怪我の具合を見る。

今日はそのまま簡易の寝床を用意して、必要な処置を済ませると身を清めて床に入る。
別に身を清めなくとも汚れはしないし、食事や睡眠は勿論だが怪我の手当てさえも本来ならば必要ない。
が、ヒノモトは人と共に生活する中で『人に合わせた方が気を使わせなくて済む』と言う事を理解していたし、共に居るサロメとしてもやはり身形は整っている方が気分がいい。


その晩は何事も無く熟睡し、翌日も極々平和に朝食を平らげて寝床を片付けた後、『二人』は更に庭園を先へと進む。

その先に居たのは、少女や青年と猫の耳を生やした物の怪の女に少女の姿をしたからくり人形の奇妙な四人（？）組、そして立ち塞がる様にして待ち構えている一人の兵士。

兵士が何か喚いているがどうでもいい。
どうせ、 彼 女 に 捧 げ る 供 物 である事に変わりは無いのだから。

——こうして、3日目の戦が幕を開けた。