「ふと…………もも………」
「ああはいはい、太股ねー、貴方好きねえ」
　日本から持ってきた雑誌を開いていると、名状しがたい白濁したソレが興味を持って近付いてきた。エンジェルタンは向こうで燃え尽きている…多分、追っ払おうとして散々な事をされたのだろう。ちらりと見えた彼女の太股が白濁液に塗れて、暴漢にでも襲われた後のようであった。ただし、漫画に良くあるホースで色水をぶちまけたみたいな濡れ方なので、あくまでもフィクションの中での暴漢に襲われたような状態、なのだが。
「たに……ま……」
　食い入るように紙面を見る彼は、弾力がある尾鰭で空気を薙いでいる。興奮している時にはこうなりやすい。揺れる度に、尾に近い部分のふくらみが大きくなっている気がするけれど、気にしたら負ける気がして、私は目を紙面に戻した。
「水着特集だから、谷間は多目ねー。」
　色別に分けられた水着の、一つに指を這わせてみる。
「昔は海に入るだなんて、誰もしなかったのに」
　好き好んで、こんな肌も露わな格好で海辺に繰り出すなんて。まあ、河川や大海の女神も大概なので、人間が肌を出すようになったことを喜んでいるかもしれない。
「羽衣を脱いで、あそこもそこも見放題、だもんなあ」
「あそ……こ」
「そうそう、白い肌が目に眩しいわよー。人魚たちなんて集まった日には、大きな胸にびっくりするわよ」
「はと……胸……」
「人魚なのにハト！面白い事言うね、貴方」
　杏仁豆腐の様な香りのする彼は、くるりと後ろを振り向いた。水着とは反対の、極端に肌の露出が少ないレースの塊みたいな、エトワールちゃんだ。
「あの……お食事の、用意が……」
　もじもじする様子も愛らしく、スカートの裾を何度も撫でる指を見てつい笑みがこぼれてしまう。
「謝々、今行くわ」
「今日は、お肉が少ないですから、あの、食べられるかと」
　慌てたように付け足す彼女に、あたしは微笑んだまま頷いてみせた。
「気にしなくても良いのよ、神仙はそもそも余り食べないものなの。私が寧ろ食べすぎな位なのよ」
「でも、昨日だって殆ど召し上がっていませんのに……！」
「あはは、燃費が良いのだけは自慢なんだよ」
　人間というのは、常に食べないといけない。時々気の向いた時に仙桃を齧る程度は食事とは言わないようで、その高い頻度にはいつも驚いてしまう。
「うん、でも今日は美味しいご飯用意して貰ってるみたいだし？一杯食べちゃおうかな—」
　おどけて言えば、彼女も漸く笑顔を見せた。
「今日のパンは、私が焼きましたの」
　献立の説明を、指を折って数えるようにしていくエトワールちゃん。びくびくと震えて白濁液を雑誌に振りまいている、魂魄みたいな何か。それから揺れる焚火の近くで今日のお昼を作ってくれている水音ちゃん。
　まだ一緒にいて３日目だけど、うん、上手くやっていけそうだよ。パパ。