※続きものですので、先にブラック(ENo.1596)の日記を読むことをお勧めします。
http://ikki.x0.com/r/k/k1596.html#DIARY

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そこでブラックは響いていた笑い声が消えた事に気が付いて、ジャックの方へ視線をやる。
粗方『仕置き』が済んだのだろう、ジャックは満足気に腰に手を当てて、伸びきったマフィアを見下ろしていた。
…可哀想に、マフィアは随分と痛みつけられた風体で、その白いシャツは赤く染まっている。

「ヘイ、ジャック。随分とご機嫌じゃないか」
「まぁな！全開じゃねぇが、そこそこ遊べたからよ。そういうブラックもご満悦って面じゃねぇか」
「ん？俺はそんな事ないさ。でも、ま…悪い子にはお仕置きが必要だろ？」

互いに顔を見合わせて、弾けたようにゲラゲラと笑い出す。
そうして完全に伸びている貴族とマフィアを背中合わせにして手近な紐で縛り上げた。

「それにしても、随分とまぁ……あーあ、痛そうだな。怖い怖い」
「このおっさん、ビビりのくせに割と頑丈でよぉ。なかなか楽しめたぜ！」
「だからってさ…くく、可哀想に。折角の男前もこれじゃもう分からないな」
「つーか、ブラックもひでぇ事するぜ。あーあー鼻が折れてんじゃねぇか。ぶっは、ひでぇ面！！」

床に落ちていた布で拳を拭きながら、ジャックは二人の顔を覗き込んではおかしそうに笑い転げた。
そんなジャックをよそに、ブラックは部屋の隅の方へと足を向ける。
その先で膝を抱えて丸くなっていたオーナーは、恐る恐る顔を上げて周囲を見渡した。
ジャックの笑い声につられてそちらに視線を向けると、
そこで無残な姿で縛り上げられている人物たちを見つけ、目を見開いて驚愕の表情を浮かべる。

「やぁ。お待たせ」

場違いな程に爽やかな声で話しかけられて、ビクリと身体を跳ねさせながら、オーナーはブラックへと視線を向けた。
にこやかに微笑む様子は、先程まで貴族を痛めつけていた人物とは思えないほどの好青年に思える。

「ぁ……あ……ありがとうございます……！助けてくださって……！！」

土下座の姿勢で頭を床に擦りつけながら、オーナーは叫んだ。
ブラックとジャックはその言葉に、きょとんとした表情を浮かべた。

「別に、あんたを助けたわけじゃないけど」
「……え？」
「何で助けてもらえたって思ってるんだ？あんたもこいつらとグルなのに」
「ち、ちが……！」
「違うってんならよお、分かるように説明しろや。なあ？あぁ！？」
「ひぃ！！」

ブラックの問いに狼狽える態度に、
ジャックは眉間に皺を寄せ、ズカズカとオーナーとの距離を詰めて問い質す。
そのあまりの剣幕に、オーナーは面白いほど飛び跳ねた。
顔を伏せて丸まろうとする襟元をひょいと掴み上げると、そのまま持ち上げて壁に打ち付ける。

「おいおい、ジャッキーちゃん。手荒な事したらかわいそうだろ」

そう忠告するブラックの声も、楽しそうに弾んでいる。
ジャックは楽しげな笑い声をひとつあげると、その手を再びぱっと離した。
ゲホゲホと咳込むオーナーの前に座り込んで、その顔を覗き込むように身体を折り曲げる。
その隣でブラックは腕組みをして佇んだ。

「おっさんよぉ。俺ァ今怒ってんだよ。なぁ、怒ってるわけ。
なんでかっつったら分かるよな。テメェらのした小賢しーぃイカサマのせいだよな。
なら分かるよな？説明する義務っつーのがあるよな？俺らに。なぁ」
「…………わ、わたし、は……」
「なぁ、おっさん。洗いざらい話しちまうなら今のうちだぜ？
あぁなりたくなきゃ、今のうちに全部言っちまえよ。なぁ。
……俺をこれ以上、怒らせたくねぇだろ？」

な？と縛り上げられた二人を指して笑うジャックの目には一切の感情が感じられず、
オーナーは悪魔でも見るかのような表情を浮かべた。

「何でこんな事をしたんだろうね。俺も是非とも知りたいな」

追い打ちとばかりにブラックが問い詰めると、
オーナーは涙を浮かべて奥歯を鳴らし、懇願するように手を組んだ。

「わっ、私は悪くない…！私は、無理やりやらされていただけなんだ……！」

オーナーの叫びに対し、ブラックとジャックは顔を見合わせた。

「…って言ってるけど。どう思う？ジャッキーちゃん」
「自分は悪くないとか言うヤツは、大抵どうしようもねぇクズ野郎だと相場が決まってる」
「！ち、違う！！私は本当に！！」

オーナーはガシッとジャックの手を握り締め、必死の表情で詰め寄った。
その行動にぎょっとしたジャックは助けを求めるようにブラックを見たが、
ブラックは笑いを堪えるように手を口に当て、成り行きを楽しむ体を決め込む。
ジャックの顔が思い切り歪んだのを見てオーナーは一瞬怯んだが、それでも声を張り上げた。


「わ、悪いのはお偉いさん方だ！そ、そこの二人のような…！
そういう連中から圧力がかかったんだ！ネクターを集める為の金を集めろと……！！
私の意志じゃない、私には従うしか選択肢がなかったんだ！分かるだろう！？
マフィアと貴族に目を付けられたら、命なんていくつあっても……！！！」


泣き崩れるオーナーを緩慢に眺めながらジャックは立ち上がり、膝についた埃を払い落す。
そうしてふと、疑問に思った事でもあったのか、ブラックへ向き直りながら首を傾げた。

「なぁ、ネクターってなんだ？」
「ほら、アレだよ。エンブリオと契約するのに必要なヤツ。俺達もここに来てすぐ手に入れたじゃないか」

ブラックの答えに「あー、アレか」と納得したようにジャックは頷いた。
そして何か気が付いたのか、顎に手を滑らせ得意げな表情を浮かべる。

「ハッハーン？つーまーり、上の連中がそれを集めてなんか企んでるっつーわけだな！」
「みたいだな」
「あー、そりゃあさ、こういう事をこれからも続けられたら困るよなァ。な、相棒？」
「そうだな。…お前が何を言いたいのかは分かってるよ、ジャック」

ブラックが肩を竦めると、ジャックは満面の笑みを浮かべた。

「さっすが！そうそう、ついでだからそいつらもまとめて潰しちまおうーってな！！
楽しくなってくんなぁ、あっはっはっはっはっは！！」

高らかに声を張り上げるその様を、オーナーは呆然と眺めるしか出来ない。
それを見たブラックは口の端を吊り上げると、膝をついてオーナーに顔を寄せた。

「……あんたは、いい子、だよな？ …この意味わかる？」

くすくす笑いながら掛けられた言葉に、反射的に何度も首を縦に振る。
それを満足気に眺め、「よし」と一言呟くと、ブラックはあちこちに散乱している金貨を素早く拾い集め始めた。

「え……え？」

呆然とするオーナーを尻目に、ジャックもブラックと同じように貨幣を拾ってゆく。
そして数分後、散乱していた金貨は全て元あったケースの中へと収容され、ブラックからジャックへ渡された。
オーナーは待ってくれと言わんばかりに慌てて立ち上がろうとしたが、
二人同時ににこりとした笑みを向けられてその身が竦む。



「この金は全部もらっていくよ。本来なら俺達が勝負に勝って貰い受けるはずだった金だしな」
「そーいうこった。あーっはっはっは！！」



そうして笑い声を響かせながら、嵐のような二人組は闇の中へと消えて行った。
オーナーは立て続けに起こった事態に耐え切れず、その場にどさりと倒れ込むのだった。

呆れ顔で溜息をひとつ吐くと、ブラックは目の前の少年と少女に向き直り笑みを浮かべた。

少女に破顔した笑みを向け、対して少年には挑発的な笑みを浮かべる。

アールは槍を二人の男に向かって構えた

少女は慌てている。