「……って、とりあえず勢いで出てきちゃったケド……逃げた羊がどこにいるかなんて、私がわかるはずないじゃない、ねえ？」


白み始めた空、歌い始める鳥の声、遠くからは朝餉の煙。
どこからどうみても平和そのものの風景の中、リュコは途方に暮れていた。
いつも傍らにいる頼れる祖父はおらず、今横にいるのは一匹のヤギだけ。

「羊探しだけではなく、きっとお前の道行きを助けてくれる、とても頼りがいのある賢い御仁だ」

と、少女の祖父は太鼓判を押したが、

「め〜え」

正直、今隣で大きく欠伸をしたヤギが、そんなに御大層なものであるだなんて、正直思えるはずがない。
このヤギを託したのが祖父以外の誰かであれば、少女は即、
「こいつは自分を馬鹿にしているのだ」
と憤慨するところであったが、ヤギを託してくれたのは、他ならぬ、最も尊敬している祖父なのだ。きっと何か、このヤギはすごい力を持っているに違いない。
リュコは、無理やりそう思い込むことにする。

☆これがでてたらかきとちゅう！

ふと気づくと

　大きい"人"の言に反応したのか、狼は子どものような声を出した。
　どこからどう聞いても狼の声——だが、どうにも特有の訛りのようなものがあるせいか、狼同士でも通じるかどうか怪しい声である。
　強いて言うなら、「そういうわけではなくて」、というところか。
　敵意はあんまり無さそうだ。あと、ついでにこの辺りがテリトリーでもなさそうだ。

　そんな様子を察してか、ひょっこり、座り込んだ狼の後ろから人間の子どもが顔を出した。

　どうやらこちらは、近づいてきた羊飼いをあくまで人間だと思っているらしい。

　狼はもにょった。

　　　　　浮かぶ羊を眺めてみる。
　　　　　空を飛ぶ動物というものは数多い、が。

　　　　　のたのたしているひつじが———啼いた。
　　　　　そして聞こえる飼い主であろう声。

　　　　　ひょい、と近づいてひつじの頭を撫でつつ……声のほうへ視線を移した。

——通りすがった少女が、ふと立ち止まり。鼻をひくつかせ。そして、貴方に向き直る

見たまま、眼帯で視界を塞がれているはずなのに危なげもなく、歩み寄る少女

いつのまにか、何かを咥えている。