「プリキュヤになりたい？」

まろんの父は読んでいた新聞から目を外し、娘の顔をぎょろりとした眼で見据えた。

「そうかい、まろんもプリキュヤを知る歳か」


その巨体をやや丸めるように感慨深げに深く頷いた父だったが、すっくと立ち上がり奥の間に入って行った。
しばし箪笥を物色するような音がした後、襖が開いたそこにはピンクのひらひらした衣装を着た父の姿があった。

「シャイニールピナス！？」
「おうよ」
「父さんは、プリキュヤだったのですか！？
「おうよ」

至極当然といった態度で再び座卓の前に座った父は、衣装と同じく隣の部屋から持ってきたビデオテープをデッキに挿入した。
ややノイズ混じりの映像の後、画面には3人の男の姿が映し出された。

『（ざッ…ざざッ…）…た…のは…白プリキュヤ…と黒プリキュヤ！ハッキリ言ってヤ…ザと機動た…』

家庭用ビデオ独特の遠くから聞こえるような音声と、3人のうち2人の屈強な男が身に着けているハートマークをあしらった黒と白の衣装。
そして、もう1人が今目の前にいる姿そのままの父の姿であることが、この映像が『ふたりでプリキュヤ Max Heat』の何かであることを表していた。

「懐かしい映像だ。何年前だったかな。即売会の主催者が知り合いでよぅ。余興を頼まれたのさ」

画面では不意打ち気味にシャイニールピナスに襲い掛かった黒キュヤが頭突き一発でマットに沈められていた。

「父さん。プリキュヤは女の子がなるのではないのですか？」
「プリキュヤってのはな、言ってみりゃ愛そのものよ」

ジュラルミンの盾ごと白キュヤを前蹴りで吹き飛ばすルピナスの映像の前に、父がグッと体を乗り出してきた。

「夢と希望を守るために戦う者はみんなプリキュヤなのさ。だから、まろんがなりてぇのなら、なっちまえばいいのさ！」

なれるのか！いや、なれるに違いない！
シャイニールピナスの衣装を着こなした父の姿には絶対的な説得力があった！

「着てみるかい？」

フンドシ一丁になった父がルピナスの衣装をまろんに着せた。
着せたというよりはピンクの布の海にまろんが沈んでいるようにしか見えない。まろんくらいの子供ならあと5人は優に入れるだろう。

「やっぱり無理か。じゃあこいつならどうかな」

衣装の海から救出されたまろんに次に着せられたキュヤマリナーの衣装は、やはりまろんには大きすぎるものだったが、こちらはまだ衣装としての体を成していた。

「こいつは母さんが来てたもんさ。まろんがもっと大きくなったら着るといい」

まろんは母の顔を知らぬ。だが、マリナーの衣装を着ることで、初めて強く母とつながることができた気がした。

「ちなみに、母さんと出会ったのもさっきの即売会さ。
　まろんもプリキュヤになるんだ。きっと面白ぇ出会いがあるぜ」

まろんもそう思っていた。プリキュヤはいつだって一人じゃない。
きっと素敵な仲間との出会いがあるに違いない。そう確信し、まろんはゆっくりと拳を天に掲げた。