一人目の名は、ベアトリス。僕が初めて知った女、みずみずしい肌が美しい女だった。屍となった母の乾いた肌とはまるで違う、生命にあふれた、しっとりと汗ばんだ肌が好きだった。彼女の柔らかな乳房に沈めた指から伝わる、肋骨のわずかな軋み、肺の収縮、心臓の拍動。そのときの僕の手の内には、確かに彼女の命があった。もしも今、この手で彼女の呼吸を止めたなら。胸の鼓動を止めたなら。母のように乾いてゆくのだろうか。僕の目の前で。その様子を見てみたい。肌が潤いを失いきる瞬間まで、ずっと触れて感じていたい。そんなことを考え始めてから数日ののち、ベアトリスは突如、僕に別れを告げた。

二人目は、カルメン。豊かな赤毛が美しい女だった。寝台でともに過ごすひととき、彼女の髪からほのかに漂う、薔薇のような香りが好きだった。たとえ彼女が隣にいなくとも、その香りをいつも近くに感じていたい。そう思った日の夜、静かに寝息を立てる彼女の髪に鋏を通した。きつく癖のある赤い髪の束が、ふさりと僕の手にこぼれた。とても心地のいい感触だったことを、今でもよく覚えている。刃の閉じる音に気づいたのか跳ね起きた彼女は、己の身になにが起こったかを理解すると、僕をぶって、口汚く罵って、泣きわめき叫びながら、部屋を飛び出していった。カルメンはそのまま二度と戻ってくることはなかった。残った髪の一房は、彼女が去ってからもしばらくの間、甘い芳香を放っていた。

三人目は、ダニエラ。黒く濡れた瞳が美しい女だった。僕の作品を見ては、目を細めて微笑んだり、悲しげに涙を浮かべたりと、くるくると変わる表情が好きだった。いつも同じく眼窩に収まっていながら、どうしてこんなにも毎日違った眼差しを見せるのか。彼女の眼球をこの右手にとってみれば、きっとそれがわかるのではないかと思った。ちぎれた視神経からでも僕の手を伝わって、彼女が日々見ているものを感じることができるのではないかと。
僕の30になる誕生日、なにか欲しいものはあるかと問う彼女に僕は、君の眼球が欲しいと答えた。冗談と思ったのか、彼女はいつものようにけらけらと笑い声をあげた。何度か問答したのち、本当だよ、と僕がペインティングナイフを手にすると、彼女はひっと息を詰まらせ、みるみるうちに顔を青くさせた。今まで見たこともないその表情は、まったく美しくなかったので、早いところ事を済ませてしまおうと思った。片方だけだから大丈夫だと、すぐに処置をするから心配はいらないとなだめても、彼女は暴れることをやめてはくれなかった。床に押し倒して、彼女の華奢な体に馬乗りになって、口を押さえつけて、結局はずいぶんとかかってしまったように思う。

数時間後、片付けをする僕の前に現れたのは、数名の自警団員だった。

ペドロの様子を見て、溜息を一つ零す。

ぽんぽん、と手を払って仲間の様子を見てまわる……。

——リレッタの周囲を赤いエンブリオが駆け回る……。

大きく咆哮すると、その得物を倒れ伏す者達に振り上げ———

振り下ろす前に、何かに怯えるようにその場を後にして駆け出した。

最後に、こちらをギロリと睨んで居たのが印象的だった……。

きっとそのままに食した方が草らしい食感は残っていたことだろう。
ぐちゃぐちゃに丸められ、いくらか潰された形跡もある団子は、明らかにその他に手の施された痕跡がない。
台無し、と評するに相応しい状態に落ちていた。