シュガーは攻城部隊の一員に配属されたものの、選別時に平宗盛の怨霊に向かって叫んだ「その時は王の側に立って戦う」発言のお陰であちこちから不審な眼で見られる事になってしまい、方々で「死刑に反対なんだよ」とか「王制はぶっ倒す気満々だぜ」などとフォローするハメになった。

「口は災いのもと、である」
「うるせぇ」

怨霊どものツッコミに返しをしつつ、シュガーがあちこち言い訳に歩き回って一息つく頃には、剛腕のラルフの選別をクリアした一揆の参戦者たちはそれぞれチームに編成され、城攻部隊の顔ぶれが明らかとなっていた。また、城攻めの刻限が決定され、一斉進撃は翌朝とのことだった。

ただし、シュガーが伝令から伝え聞くところによると、シュガーの他の３名のチームメンバーは別の地点から王城に侵入するらしく、城内で落ち合うことになっていた。伝令から受け取った指令書を読むに、シュガーのチームメンバーは、アイリスという元冒険者、妖怪と思われる黒猫、そして、エクレムという庭師の男であった。

「庭師なんて城攻めで役に立つのかよ？」

カオス溢れるチームメンバー構成に、シュガーは思わず口に出してぼやいてしまう。まあ、それでも、この庭師もラルフの選別をクリアしているのだから、何かしらの一芸の士であろうと思い返し、シュガーは配給のおにぎりを受け取って、明日に備えてテントにもぐりこむ。ゴロゴロしていると、すぐに眠りに落ちてしまった。

明朝、夜明けとともに、城攻めが開始された。義兵（参戦者）たちが次々に王城門へと殺到し、その足取りがどよどよと地響きのような音を立てる。王城は城壁で外敵の侵入を拒む構造にはなっておらず、シュガー他一揆の参戦者達は、城門から堂々と王城の領域へと侵入していった。城門を抜けるとそこは見事に整理された庭園であった。

「不思議は感覚だ…」

庭園を抜けると、今度は不自然なまでに枯れ果てた大地が広がっている。一面砂漠と化していて、気候すらも変わっている。どのような仕組みなのかは計り知れないが、王城内には様々な自然環境が再現されているようだった。

「あちー」

突然の炎天下を歩くこと小一時間、シュガーはチームメンバーとの集合地点へと辿り着く。２名ほどその場で待機する参戦者がいた。そのうち１人は銀髪の女性であり、もう１人は庭師のように見えた。どうやら彼らがチームメンバーのようであり、シュガーは小走りに近づいてみる。

「誰だ踏んだのは」

足下から怒鳴り声がした。重油のような真っ黒な液状の物体を踏みつけており、シュガーが慌てて足をどけると、液体は四つ足の生き物、おそらは、黒猫へと姿を変えた。どうやらその黒猫もチームメンバーのようだった。

砂の斜面にタープを張って影を作り、チームメンバーの顔を合わせとなった。銀髪の女性はアイリスという有名な冒険者であった。しゃべる黒猫は黒月と呼ばれているらしい。庭師はエクレムと名乗った。シュガーは何とも言えない統一感のなさを感じるも、自ら怨霊業界出身であると名乗る。人の事はいえまい。

しばし、それぞれの経歴や力量についての情報交換を行うことになった。すると、なんと、庭師は３ターンでラルフを退けていることが分かった。アイリスと黒月は４ターン、対してシュガーは６ターンかかっている。

庭師　＞　冒険者、猫　＞　怨霊拳継承者（笑）

だいたいこんな感じった。シュガーは少なからず動揺してしまう。まじかよ。庭師おっかねぇな。シュガーの動揺に呼応して、耳元に怨霊どもの笑い声が聞こえてきた。ケラケラと笑う女人の声で、おおかた平家の女房どもだ。

「あらあら、うふふ、シュガー殿、これはどうしたことでしょうね？」
「怨霊拳とかご大層なふれこみですが、シュガー殿は隊のなかで最弱なのですね？」
「うるせぇよ、味方が強くてありがてぇじゃねぇかよ！」

思わず怨霊どもにシャウトしてしまうシュガーに、パーティのメンバーは眼を白黒させてびっくりしていた。そんな彼らの視線を気にすることなく、シュガーは当初の己の色眼鏡な認識を顧みて密かに恥じ入る。

黒猫の耳がぴくりと動いた。猫は何者かが自分達に近づいていることを告げた。恐らくは敵だろう。

「かくして、頼もしい仲間たちを得て、シュガーさんの旅は続くのでした」
「いや、そう言うナレーションとかいいから」

獣のにおいがする。四足獣がタープの周りをウロウロと歩き回り、砂から粘土の立像が姿を現した。どうやら、この城の防衛方針は、敵を内部に誘い込み己の有利な戦場で撃退するというといったもののようだ。シュガーは思い返す。確かに、味方は強いにこしたことはないな。

ハチェットのカバーを外す。硝子の青い目が揺れた。

ハチェットのカバーを外す。硝子の青い目が揺れた。

溶けて広がっている……