「我を放って何の算段だ？」

間借りした安宿の部屋の扉を開けると、あからさまに不機嫌な声がかかる。
声の主は小さな、掌にも乗ろうかという大きさの少女。

「算段じゃなくて相談、だよ。」

後ろ手に扉を閉めながら苦笑交じりに返すのは、黒い髪の青年。
少年と呼ぶのは少しばかり憚られる、そんな年頃の青年だ。

「どちらでも同じようなものだ。　…王城前の奴等か？」

その声はまだ不機嫌そうだが、興味の色が窺える。

「そう。正式に同行して貰えることになったから挨拶と、これからの事について少し、ね。
　…一緒に来て貰えばよかったかな？」

探るように問うと、少女は心外だとばかりに顔をしかめる。

「バカを言うな、我がそんな集まりに行きたいわけがなかろう。
　だいたい、人間は信用ならん。
　奴らは我らのように純粋ではないからな。
　貴様も信用し過ぎない事だ。」

「そうかな、俺は信用できると思うけど。」

「何故そう言いきれる？」

「俺も人間だから。」

吐き捨てるような声と、柔らかく落ち着いた声音。
どこか責めるような鋭い視線をうけても、青年の瞳は揺るがない。
2つの思惑が交差し、やがて根負けしたかのように小さく息を吐き、少女が口を開く。

「仕方ない、協力してやろう。
　だが勘違いするなよ、決して貴様のためなどではないぞ。
　我とて、いつまでもこんなちんちくりんな姿で居たくはないからな。」

ばつが悪そうに顔を背ける少女を見て、青年は小さく笑う。

「ありがとう、ジーナ。
　でも、今の姿も可愛いと思うよ。」

「ばっ、そっ、そういう問題ではないわ！」

焦る少女の怒鳴り声が小さな部屋に響いた。