——要は、どれだけ概念と元素を都合よく結びつけるかという事か。

　頼まれた『食事』の『素材』をすりつぶしながら、独特の手ごたえを感じ、確信を得た。
　最初に『素材』を器に入れた時は、ただ緑一色だった。しかし、自身に宿ったエンブリオを通じて元素を取り入れるにしたがい、橙に近い赤が目立つ『料理』へと着実に変化しつつあった。

　高値で取引される『料理』とは比べものにならないが、腹を満たすには充分だろう。他に何か効果が期待出来れば御の字だ。
　何故、ごくありふれたものに見える料理が高値なのか。自分なりに納得する。あれは、元素の扱いに慣れたものが、その力を込めて作ったものだ。聞くところによれば、単純に腹を満たす以外の、魔術に近い作用すら秘めているという。
　それには相応の技術が必要な上、現在この世界はネクターが乏しくなっている。そうそう安値で売れはしないというわけだ。

　——元が草という事すら完全に忘れてしまえば、肉に作り変えることも出来るかもしれない、が。

　手を止めずに目だけを動かし、通称「二班」に所属する、黒髪の青年を見る。肉に大変執着していた記憶があったが。

（調達元を訊かれるな）

　まだよく知らない部分も多いが、狩猟する者特有の匂いがする。何の肉か、単純に知りたいと思うのも自然だ。
　そしてそうなれば、自分はまずごまかしきれないだろう。となると、より落胆するのが目に見えている。

　やはり下手なことをせず、向こうの班の料理担当に任せた方が良いだろう。満足の基準というものは、人によって異なるものだ。
　ごまかしができない事を、恩師は『向き不向き以前にやる気がない』と評した。薄らと自覚はしていたが、改めて言われると納得するしかなかったのを覚えている。

　こちらに来てしまっている間、研究室の掃除は、大丈夫だろうか。
　世界の向こうに思いを馳せつつ、充分に混ぜた器の蓋を閉めた。

　

　　　　　　(耳をへんにゃりさせている)

　

　

なんとなく美味しそうな気配のする野草を手にしながら話しかけてくる。

（革手袋を装着して掌を打つ）