チーズを挟んだベーグルサンドに、ハムとレタスを挟んだサンドウィッチ。それからいれたての紅茶。
急に決まったからとりあえずあったものしか詰めれなかったけれど、これで十分だろう。
ピクニックという言葉に心を躍らせながら訪れた見晴らしのいい場所で広げた其れに対して
ソルトさんが言ったのは、食べれる草の、お話。先程拾った「美味しい草」を食べるかと。
調理済みの方がいいと言うルドさんに、普通はそうかと、思う。けれど。
「大丈夫ですよ、大概の草はどうにかすれば生でもいけます。
味とその後はさておきまして。」
思い切り良いのな、クローシェ。味はともかくその後は何事も無い方が良いなぁ」

真面目に言いきった自分に対して、ルドさんの反応はのんびりとしたものだった。中々に意見は、噛み合わない。
そこで紅茶に砂糖を求めながら、さらりと告げられる、爆弾発言。

「……何を言っているんだい、ルド？　僕の友達は、必要に迫られたら土だって食べてたよ？」

考える。土は、食べるものだっただろうか。
私は食べても美味しくなさそうだと思う。ルドさんは必要なら分かるが、
修羅にはなりたくないと言った。——土を食べると修羅になるのだろうか。
ちなみに自分が草を平気で食べる件については、エンブリオが教えてくれたとしても
気を付けた方がいいと注意を受けた。ルドさんは本当に優しい人だなぁと。しみじみ思う。
草をそのまま食べるのは調べるのが面倒くさい自分の惰性だし、本当に危険なものは
エンブリオが大体釘をさしてくれるのと、本能的に避けるからだけれど。
…心配をされてしまうと、気をつけない訳にはいかないなと、思う。ぼんやり。
そんな考えを打ち破ったのは、きっとソルトさんのたった一言。

「土とか、光るスパゲッティとか……多分、僕はあれを食べたら死んでしまうと思う」

『光るスパゲッティ』
多分私もルドさんも、同時に動きが止まったと思う。
そんな単語を聞いた事は、生きて来て一度も無い。

「……中々前衛的なものばかりを食べられてた方だったのですね…」
「……光るスパゲッティとか、俺も色んな所渡ってきたとは思ってるけど、初耳だぞ……？」
「……僕も、一度しか見たこと無いけど、あの光るスパゲッティね、
『動いてた』よ。うん、「命懸けだ」って言ってた」

ソルトさんにしては珍しく、遠い目をしてしみじみと呟かれる言葉。理解が追い付かない。


「……ええと。待って下さい。まず、私スパゲッティは「動く」ものだという認識が無いんですけれど。
そして「命がけ」というものだとも、思ってないんですが……」
「むしろどうしてそれを『食物』だと認識したんだよ……？　それでどうして命がけで喰おうとしたよ……？」

そして彼は語る。妹思いの人だからこそ、妹の手料理は食べなければいけなかったと。
其れが彼女の唯一の趣味だからだと語っている時に、気配を真っ先に感じたソルトさんの視線が動く。
ルドさんも動く。
私は視線は動かすけれどまず真っ先に心配をしたのはお弁当の事。

「……やぁ、今日和。今日は、いい天気だね？」

ソルトさんが立ち上がる。声をかける。
平和主義なんだけどなぁと呟きながら、ルドさんが得物を手に立ち上がる。
私は立ち上がるより何より先に、お弁当に埃が入らない様にせっせとたたむ。
たたんでから、ゆっくりと杖を手に、立ちあがる。

「食事の時間を、邪魔されるのは余り頂けないかと…」

楽しい時間を邪魔されるのは余り本意ではないと、来訪者へと、声を。

　まるで、何かの台詞をそのまま読み上げたみたいな口調だった。

　私はそれを、雨のために使ったことがなかった。
　差し出されたタオルを受け取って、尋ねる。

　彼女がそうしているように、見よう見まね。自分の髪にタオルを当てて、撫でてみる。
　布地が滴る水を吸い上げて、みるみる重くなっていく。

　感じたか、の問いに対して、これで答えになっているのだろうか。

　ついで、ええとね、と呟きながら、狼の毛並みをそっと撫でた。

　ぽつりとどこかから若い男の声がひとつ。
　よくよく見れば狼の口がほんの小さく動いたが、目の前の女性がそれに気づいたかどうか。

　狼が同意するような鳴き声を漏らしたのを最後、ひとりと一匹は、そそくさ王城の方へと駆けて行った。

　くるりと、棍を回す。軽く、まるで準備運動のようにして。

　楽しめそうだと、そう言わんばかりの好奇を浮かばせた。

笑顔のまま、少年は、

緩く、片手をひらひらと振った。

右目で、『それ』を視る。
それは、呪い。右目のもの、同質、いや、それ以上の、『塊』。
————まるで、この世の、全ての悪意。

どさり、少年の身体もまた、地に臥した。