「ひのふのみのよ…んーん。これやと足りへんのか？」
　試験だとか何だとかで集められた人々を見渡し、指折り数えて首を傾げる。
　一揆、と銘打つ割にはやたら体系化され、仕様が明文化されているこの戦い方は世界文化なのだろうか。
　班を組むのは四人まで、城主など、大物と対峙するのは八人まで。
　戦は数だというのに、何故かそれをバラバラに別行動をさせるような定型を作り、指揮を執る『上』もいない。
　王を打倒しようと目指す、数千の烏合の衆。
　どうしようもないちぐはぐさを感じて、だがそれは仕方のないことかもしれない、と思い直した。
　つまるところ、この『一揆』に参加しよう、とやってきた異邦人はどうやっても異邦人ということだ。
　国を変える、王を変える、世界を変えるというのに、どうして『他人』に舵取りを任せられようか。
　そもそも呼びかけに応えた者たちであるとはいえ、その目的も思想も千差万別。統一意志のもとに動かそうなどと考えるよりは、大枠の中で各自自由に動かしておいた方が良い、と判断した誰かがいるのであろう。なるほど、そう考えれば少人数で行動させるということは、母体を乗っ取るような一大勢力を作り辛い環境であり、裏切り者が多少潜んでいたところで大勢に影響は出ないだろう。
　ひとつ、己の中で納得がいったところで、改めて人数を数えてみる。

　いち、まずは自分。当然であろう。
　に、サクロの。元々ここに来るように言い出した元凶だ。行かないなどと言うはずもないが、もし言ったらまた正座の刑にするべきであろう。
　さん、同行してきたユーグの。小間使いたちとは違い、『動ける』人間であり、戦力の一人として数えても文句はあるまい。一緒にいる少年——ツグミは基本、非戦闘員だから数には入らない。正直、あの線の細い少年を荒事に巻き込むのは罪悪感が芽生えるし。
　し、ご、ろく、この世界で出会った三人の少女たち。年端もいかぬ子供に荒事を強いるのは気が引けるが、当の本人たちがやる気なのだから野暮は言うまい。
　というか、彼女たちの場合止めてしまえばさらに斜め上の暴走をして止めどころを見失う予感がするので、適度に手綱を握った上で発散させてやらなければという義務感がふつふつと。
　そしてなな、ユーグのが連れてきたどこか捉えどころのない青年、セロ。仲間というよりはたまたま目的が同じの同行者として自分を定義しているのだろう、一線を引いた接し方は懐かない野生の動物じみた印象を覚える。事務的な対応をしてくる相手には、適度に自由度の高い仕事を与えるべきであろう。

「うん、一人足りへんな」

　現在の戦闘要員は七名。別にひとり足りないからといって問題はないが、戦いは数である。どうせならばあと一人、どこかで捕まえたい。
「一名様募集の立札でも出すべきかねぇ……要面談にしといたら、ユーグのも文句はないやろ」
　サクロの文句は大して問題ないので考慮外にしつつ、下唇に扇子をあてて思案する。
　と。

「一人足りないなら丁度いいわ。そこに入れて貰えるかしら〜？」

　不意に横から、そう声を掛けられた。



「というわけなんだよ。とりあえず僕だけで決めるのも何だから、店の住所渡してきた」
「理由はわかりましたが、……いや、これも私の仕事の範囲か。了解しました」
「有能なのも困ったものだね。すまないがお願いするよ」
　にこり、と口元を扇子で隠したまま笑って見せれば、対する男は一つの嘆息を落として承諾の意を返す。
　隣にいる表情の乏しい少年が男に向ける視線には気遣いが含まれているのかどうか、こちらからは分からないが男が安心させるように少年に微笑みかけるのが見えて、ああ通常営業だな、と安心した。

「せーきにーんしゃー！　責任者、こっちー！」

　己を無視して話を進められるのに耐えられず横で存在を主張しようとぶんぶんと手を振る、この世界での最高責任者のしょーもない姿も含めて。

　
　　　　　　下らなそうに笑って、右手に魔術力場を形成した。