私はそこまで書いて、その文言を訂正した。それどころか、結局は手紙を処分した。
　万が一母様がその文言に気付いたら、まずい。余計な心配はかけたくない。

　けれど、そう書いた気持ちは、強ち嘘でもないのだ。
　溜息を、一つ。
「まさか、だわ」
　ミハウと一緒に、初めての攻城戦に挑んだ時のこと。
　平原を進んだ先の相手は、アメーバとケット・シー。
　そこまで強く警戒する敵でもないが、油断は禁物だ。何が起こるかは、分からない。
　それにミハウの足を引っ張ったりしたら、大変だ。
　そう思いながら、彼と彼のエンブリオと共に、戦いに臨んだのだが——

「喰らっとけ！」
「とっとと、寝てろ！」
「こんなもんか、たわいもねえな」

　と、言う風に。
　戦闘になると豹変したのだ、あの男。
　あの勇ましさは頼もしいと言えば頼もしいけれど、それでも、普段とのギャップが凄まじい。
　出会ってからそう日が経ってないとはいえ、いつものミハウは温厚で、優しい性格をしているのだ。
　ウルヘアがイェジを襲ったときだって、彼はこちらに突っかかったりはして来ず、とても紳士的な対応をした。
　だからこそ、戦闘での変わりっぷりに驚いた。
「……よほど、ストレスでも溜まってたのかしら」
　いや、さすがに違うだろう。思い直す。
　そうでないのなら、いわゆる二重人格、と言う奴だろうか——でも、戦いが終わった時、こちらを見て慌てていたから、それも違う気はする。
　何か、それ相応の理由があるのだろうか。
　……変な人だったら、どうしよう。
　私は一揆に参加しに来たとは言え、ちゃんとあの森に帰らなくてはいけないのだから。
　それは、困る。非常に困る。

　まあ、あれこれ悩んでも仕方が無い。
　これから、一応は行動を共にすることになったのだし、勝手に一人で推測して、誤解をするのも良くないから。
「本人に直接訊くのが、一番よね」
　そう自分に言い聞かせるように呟いて、私は椅子から腰を上げた。

「そ、そで……そうですか？」

何度か慌てふためいてそんな事をとうとうと問いかける。まるで過保護な親が子を心配する様な口振り。
それにしては、自分は幼げなのだけど。

「私、は…大丈夫です。一方的にぶつかったのですし」

そこでようやくあなたの姿を視認する。謝り倒してちゃんとみえていなかった、あなたの姿。

「こほん。……ところ、であなたも一揆……というものに、参加しに来た人……ですか？
　よろしけれ……ば、名前を聴かせて……もらえません、か？
　私は偽……と云います」

咳払いしてから、ふと話題を変える。謝り倒しても迷惑だろうし、縁があったと考えて、自己紹介。胸に手を当て途切れ途切れのほそい聲でそう云った。

「……不思議な雰囲気を纏われている。あなたとは似ているような気さえします」

ふとそう突拍子もなく呟きながら掌をひらひらと、裏表をコトカに見えるよう見せてやる。何度かそうした後、手を表に向けた時にはこの時期に咲くにはやや遅い、昼顔と呼ばれる白い花を手に持ってた。

「出会いに感謝。……願わくば芳しき、出会いを象徴するこの、花を。この《世界》にいる限り決して枯れない花を授けたいです」

魔力の感知が可能であれば、微弱に魔力で覆われている事に気付けるだろう、が。手渡そうとするこれを受け取るか否かは当然自由だ。

魔王要素はどうやらマントだけの様だった。

一揆に参加した理由を尋ねられれば、ああ、と言って。
いささか大袈裟に手を翳して暗黒球などを無意味に作り出しながら。

暗黒球をパッパッと消しながら尋ねる。
さっきの演技臭い台詞と違い、柔らかな表情だった。此方の方が素なのだろう。
…本人は見事な演技と思っている様だが。

返事を聞く前に腕まくりのポーズをしてみせる。

ぷにぷにとしたものがパオパの体を離れ、少女の方向にじり寄ろうとしている…

目を細め、深く息をつく。武器を構えて、まっすぐ前を向いた。

ふ、と息をついて、瞬きをひとつ。

　〜ミハウ宛てのメッセへ続く〜

微笑んでから一礼。顔を上げたときには、表情は消えていた

息をつくと同時、雰囲気が緩む。