——迂闊だった。
そう、迂闊だったのだ。

最近は、少し上手く自制できるようになったからと、気が抜けていたのかもしれない。イェジだけを供にしていた時期が長く、つい最近までそうだったのもあるだろうとは思う。
今、目の前には、明らかに眉を潜めた少女・コトカと、彼女のエンブリオが居る。
それこそ、衝撃的（エンブリオがエンブリオを捕食目的で襲撃するという意味で）とでも言える出会いと過程を経て『協力』すると決め、共に旅路を歩むことにした少女。先の戦闘は、彼女と共に戦う初めての戦いだった。危険度は低いが実戦、無様な所は見せられないと気合いを入れ——それが、今の状況に繋がってしまったのだから、どうしようもない。
失態だ。完全に。

別人のような、荒っぽい振る舞い。相手にした者を叩きのめすまで止まらない、苛烈なまでの攻撃性。

異常だとは、思っている。
普段の振る舞いを知る人が先ほどの振る舞いを見れば、精神がイカレているとか、危ない奴だとか、そう考えられても仕方がないだろう。現実、多分近いことを彼女達には思われていると、ミハウも思う。当然だ、態度も言動もあまりに違いすぎる。印象だって、悪化どころの騒ぎではないだろうとも。

——けれど。

その切り替わりにはちゃんとミハウなりの理由がある。納得してもらえるかは別として。……ただ、言葉にしてしまえば、正直非常にしょうもないし、彼にとっては恥ずかしい話である、というだけであって。
だが、説明しないわけにもいかない。流石に誤解されたままでさようなら、ということになったら、ミハウ自身、個人的にやりきれない。
どう説明したものか、と視線を落として、見上げていたイェジとかち合った。
いつもしかめっ面（あまり変わらないが、そんな風に見える）の彼が、何かを考えるように視線を外し。何か考えてくれているのだろうか。
見ていたミハウに、もう一度イェジが視線を合わせた時には、妙に歪んだニヤケ面をしていた。

「ば　ァ　か」

わざわざ一字ずつ区切って言い放った辺り、彼は考える気も助け舟を出すつもりも無いらしい。
ミハウは小さくため息をついて、弁明の言葉を考える。

——まったくもって、上手くいかないものだ。

　そう言ってから、沈黙する。

　少し心配そうに、ミハウを見遣った。

目を細め、深く息をつく。武器を構えて、まっすぐ前を向いた。

ふ、と息をついて、瞬きをひとつ。

　〜ミハウ宛てのメッセへ続く〜

微笑んでから一礼。顔を上げたときには、表情は消えていた

息をつくと同時、雰囲気が緩む。