例えば琥珀。
木の樹脂が化石化したこの石は、一部の地域では信仰さえ生まれている。
価格は安いものから超高級品まで様々だが、
普段使いからパーティまで使える便利さを兼ね備えている。

手にするとやや温かみを感じ、
内部にアリやトカゲなどを閉じ込めたものは人気が高い。
色が濃く、厚みがあるものが好まれやすいが、その分価格は上がりやすい。

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「スィナン、何をしているんだ？」

珍しく真剣な表情をして机に向かうスィナンを見つけ、
アデルは興味津々で側に寄る。

スィナンの机の上には、ぞんざいに箱に入れられた琥珀が山ほど。
どれも色と厚みが薄く、あまり価値は高くなさそうだ。
それから瓶に入った茶色の液体と、絵筆。

「……色でも塗っているのか？」
「その通り」

作業を中断することなく、スィナンは答える。
箱から琥珀をひとつ取ると、裏面にちょいちょいと
茶色の液体を塗りつけていく。
塗られた琥珀は丁寧に並べられ、自然乾燥される。

「安い琥珀は色が薄くて厚みもないからな。
　こうやって裏面を塗ることで、色に深みが出るんだよ」
「……それは、何というか……いいのか？」

さわりだけ聞くと、まるで偽装、偽造に聞こえてしまう。
あくどい商売はしなさそうなスィナンにしては、意外な行動だ。
不安げなアデルの声に、スィナンはため息をつくと、
絵筆を置いてからううんと一つ伸びをした。

「琥珀はほとんどがこうやった加工品でな。
　天然物で色の濃い奴なんて貴族でも中々買えるような値段じゃねぇ。
　もちろん売る前に裏面は見せるし着色のことも言う。
　——こいつをバカ高い値段で売ればイカサマだろうが、
　こいつらは露店売り用の安もんだ。
　それなりに見えるものを安く買えると納得の上で買うなら、いいだろ？」
「ううむ……良いのだろうか」

まゆを潜めて難しい顔をするアデルだが、
その眉間をスィナンは指でぐりぐりと押す。

「アデル、採れたてのトウモロコシを生で齧るのが美味いのは自明の理だが、
　収穫後何日か経ったものを茹でたり焼いたりして売るのは罪じゃねーぜ」
「それはそうだが……」
「宝石の価値なんてでたらめなもんさ。
　手に入れる人間が価値があると思えば、石ころだって高級品だ。
　綺麗に見せるために加工をするのが駄目なら、
　カットをするのも駄目になっちまうんだぜ？」
「む、それもそうだな」

悩むような表情のままで、神妙に頷くアデル。

「とゆーわけで、この着色は合法だ。
　まぁ、生まれ持った才能だけで輝く奴もいりゃあ、
　生まれに関わらず、努力次第で輝きが増す奴もいるってことさ」

会話を終わらせ、場をまとめるように軽口を叩くスィナンだが、
その表情には一縷、真剣なものが含まれていた。

耳につけている珊瑚のピアスを撫でながら

けらけらと笑うスィナンを見てため息を漏らした。
暗殺者に狙われることはないが、一揆が起こっている今、情勢はあまり穏やかではないのも事実だ。

目の前に差し出された物を見た途端、説教モードは不発に終わった。
好物の誘惑には、しかしどうして抗えなかった。

頭のめぐりが遅い…というよりは、人の言葉をまだ習得しきっていない様子で、
返事を成す言葉を組み立てて返した。

以前見掛けた少女（を思わすような格好を装う少年）が露店の前に立ち寄る。

ギルド入会早々の出来事。
自らの失態を重々しく受け取っているようだ。